毎号、“きれい”についてさまざまな角度からこのコラムを書いているけれど、今回は久々にみつけたきれいな女性の話をしようと思う。
そのひとは二十代後半。仕事はバレエ教師。若いのに100人からの教え子を持ち、日々クラスの教えに励んでいた。
彼女は7歳からバレエを始め数々の舞台を経験した後、大学卒業と同時にバレエ王国イギリスに単身留学をしている。そこにはバレエ教師としての特別な教育を授ける学校があり、目的はその資格を取得するためだった。通算2年にわたる留学中、同学年に日本人はひとりもいなかったというから人知れぬ苦労もあったに違いないが、現在の彼女はもちろんそんなことはおくびにも見せない。
資格を手に帰国した後、日本でバレエのクラスを開いたが、そのわかりやすさと的確な指導はいつのまにか人気を呼んだ。わたし自身、バレエというある種“とっつきにくい”習い事を、あれほどまでに噛み砕き理論分析できている日本人教師も少ないと思う。たくさんの生徒がついてきたのも、彼女のまっすぐな情熱のたまものだろう。
そんな彼女が結婚したのはこの春のことだった。8つも年上の優しいダンナ様と新しい生活を始めたのもつかのま、なんと突然、ご主人にニューヨークへの転勤が命ぜられた。短くて3年、長ければ6年という条件だった。
ついていくと決めれば、何年も続けたバレエのクラスも閉鎖しなくてはならない・・・。人生の大きな選択だ。彼女はバレエ教師を辞める決意を固めた。
ラストクラスの日、別れを嘆いて集まった大勢の生徒達の前で彼女はあいさつをした。
「みなさんがこれからもできる限りバレエを続けてくださるのが私達教師の喜びです。それだけ魅了させることができたわけですから。バレエはとても奥が深く歴史のあるものです。日本にもたくさんの良い先生がいます。みなさんもそういう先生にめぐり合い、たくさんのことを吸収してください。
けして私がベストの教師ではないのですから」
この言葉を聞いて、わたしは心の底から“ああ、このひとはすごいな”と感じた。われわれ医師もそうだが先生と呼ばれる職業は、多くのひとに頼られベストを尽くそうと頑張っているうちに、いつの間にか“自分がベストだ”と思い込んでしまうことがある。だから自分のやり方を否定されたり、非難されたりしようものなら、ものすごく不快な気分になる。そしてまた、ほかのやり方を受け入れられない頑固さも身にしみこんでくるものだ。
しかし、彼女ははっきりと口に出して言い切った。
「わたしがベストではありません」
と。
先生という立場に甘えず、溺れず・・・。そんな凛とした彼女の最後の姿を、わたしは美しいと感じた。 |
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