2001.5.11号



 
アメリカ女性のバスト観

 New Yorkerの女友達と食事をしていたときのこと。
突然彼女が切り出した。
「豊胸手術を受けようかどうか迷っているのよ」(もちろん英語)
「ええ〜!どうして?」(テキトウな英語)
わたしが驚くのも無理はない。だって彼女は身長170センチ以上、体重58キロのスレンダータイプで手足もすっごく長い。遠目で見たらモデルかと思うほどのスタイルの持ち主だ。しかし痩せ型とはいえそこはアメリカ人、バストは見事に豊かなのである。サイズで言ったらおそらくEカップくらいはあるのではないだろうか?
 聞けば、彼女はこの1年で10キロ以上のダイエットを試みたという。通販でウォークマシンを購入し毎日目覚めに30分。そして夜の6時以降はいっさい食べ物を口にしないという徹底ぶりで、その結果彼女は目標をクリアした。
「痩せたらバストがなくなった。これってやっぱりサミシイのよ」
 これが豊胸手術を考えた発端だという。
 それにしてもEカップにしてサミシイとは・・・! 日本の女の子だったらありえない感覚ではないか?もともと華奢な日本人、BでOK、Cなら万万歳。そんなもんだろう。
アメリカ女性にとってバストはとても重要な自己アピールポイントである。豊かな胸を持つひとほど優越感たっぷりに洋服も着こなすし、男性に対してもそれを誇示できる。外人モデルのグラビアはその典型だ。“ブロンドヘアと巨乳こそがアメリカンガール”と言わんばかりにみんな髪を染め豊胸手術を受けている。女性ミュージシャンでも有名になった途端にはちきれんばかりのバストに変身していることも多い。
 こうしたバスト観のなかで育つと小さな胸は相当コンプレックスになるらしい。その解消のためには何千ドルを投資しても惜しくないと彼女は言った。
医学的見地からすれば昔のシリコン埋め込みに比べて最近の手術はずいぶん良くなっているのは間違いない。術後のひきつれや癌などの合併症もかなり少なくなっている。しかし医学界でも自然志向の強いわたしとしては、どうしても彼女の手術を肯定したくない気分。
友達だからなおさらだ。だってどんな手術でも体に与える影響は少なくはない。いざ病気なら仕方ないけれど不必要にいじらないにこしたことはない。
「んー・・・やめといたら?」
 歯切れの悪い返事に彼女はいささか不満気であった。

 その後2週間ほどして、再会した彼女の表情はやけに明るかった。理由を聞く間もなく
「見て見て!どう?」
 ジャケットを脱いでバストを誇らしそうにこちらに見せつけてきた。自慢するだけあって以前より数段大きく形も整っている。
(え?もう手術しちゃったの?・・・それにしても短期間)
こちらの戸惑う顔をいたずらそうに覗き込むと、彼女はこう言って笑った。
「ビクトリア・シークレットのミラクルブラ。日本でも通販で買えるのよ、ふふ」
 なんと彼女の胸を変身させていたのは最近流行りの特大パッド入り矯正ブラだったのである。
 ほっとため息、そして大笑い。そんなちょっとした事件だった。
プロフィール
おおたわ史絵
内科医、執筆家。
現代人の心理を辛口に分析。
その医者らしからぬルックスも魅力のひとつ。
4・11発売のマガジンハウス「Tarzan」女医でenjoy に登場。
雑誌 ef NOVARK おとなぴあ など連載中
5・14テレビ朝日系 ビートたけしのTVタックル出演
http://www01.u-page.so-net.ne.jp/tc4/fumie/
 
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