2002.12.11号



 
 えっ!
 女性の性の本が売れてるって!?

「今、こんな本が売れてるんですよ!」
テレビ業界の知人から一冊の本を見せられた。その名は『サティスファクション』、本当によく売れているらしいのでご存知のかたも多いと思うが、中身は女性のための性の本である。その昔『How to sex』というやつが大売れしたが、あのときは男性読者を中心としたヒットだった。そう考えるとオンナのための性の本が日の目を見たのはこれが初めてかも。
 たしかに装丁やイラストを見る限り、まるでオトナ向けの絵本みたいなキレイな仕上がりで、女性が手に取るのも抵抗感はない。しかし本文をよくよく読むと、しっかり性のテクニック本なんだけどね。
「なんでこういう本を女性が読むようになったんでしょうねぇ?以前はSEX関係の出版物といえば男性向けと決まってたんですけどねぇ」
先の知人は首を傾げる。
 
ワタシ的に言うなれば理由は簡単、女性の性が“本能”から離れつつあるからだ。そもそもほとんどの動物は生殖のために性行動を行なう。もちろん子孫繁栄などと理解したうえでやっているわけではないにしろ、本能的行為の結果として遺伝子を残せるうまい仕組みになっている。
 生殖以外の目的、たとえば愛情表現だとか快楽といったことのために行為に至るのは人間くらいのものだ。しかしそれも最近の話、およそ100年前の人類ならば“本能”と“それ以外”の割合は半々くらいのものだったに違いない。この比率が今や大変革を遂げ、こと二十代以下の女性にとっては9:1くらいのものなんじゃないだろうか?いや、それ以上かも・・・。
 話は飛ぶが、ワタシの尊敬する解剖学者の養老孟子先生はこんな説を説いている。
“ひとは自然の中に生まれて暮らしているという現実を忘れてしまっている。すべてが人間の手によって人工的に作られた都会で、人の作った食品を食べ、人の創造した情報を頼りに生きている。だから自然現象としての地震や雷や台風といった天変地異にはめっぽう弱く、いざ土壇場になるとどうしていいかわからない。つまりこれは自然のなりゆきに身をまかせることができなくなった証なのだ”
 
この話と先程の女性の性意識の変化は遠いようですごく近い。性は本能だと書いたとおり、もともとは性衝動も妊娠も出産も偶発的な自然の出来事だったわけだ。言うなればひとの手の届かない自然の聖域。それがバースコントロールや男女の産み分け、避妊などが進歩するにつれ、なんだか人間の力でもコントロール可能なものみたいになってきてしまっているのである。
 人類というのはコントロールができるものに関しては、どんどん贅沢になる傾向がある。たとえば、お金。頑張れば裕福になれるとわかるとせっせと働いたり儲け話を集めようとする。ひとによっては詐欺を働くまでに思考回路を駆使する。IT化やハイテク化も同様、便利になるための開発には誰も疑問を持たずにとことん邁進している。おかげで以前は顔の見えない遠くの相手の気持ちを手紙の行間から読み取るなんてロマンもあったのに、今じゃどこにいたってケイタイでカメラもついてるから動画も送れちゃう。行間云々なんてまどろっこしいこと言ってるひとはもはやマイノリティ扱い。
 このようにすべてを思い通りに支配できると錯覚しきってしまった現代の人類は、最後の砦“性”までをも貪欲にコントロールしようとし始めたのである。女性のための性の本、
「どうせなら快適でお得感がなきゃ!」
って、まるでグルメ旅行かブランドショップでのお買い物をしているかのような彼女たちのそんな声が聞こえてきそうで・・・ワタシとしてはちょっとコワイ。
プロフィール
おおたわ史絵
内科医、執筆家。
現代人の心理を辛口に分析。
その医者らしからぬルックスも魅力のひとつ。
雑誌 ef NOVARK おとなぴあ など連載中
5/23 リニューアルスタートしたweb Tarzan(マガジンハウス)http://tarzan.magazine.co.jp/ にて新連載開始。みなさんのココロとカラダの質 問にお答えしています。随時更新。
 

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