今日は美容整形の話をひとつ。
まえまえからアタシはアンチ整形派と明言してはばからなかった。きれいねネット愛読者のみなさまなら、すでにご存知ね。
そんなアタシの心を揺さぶるちょっとした出来事があったので、ぜひとも聞いてくださいな。
とある晩、アタシは新しい本のネタ収集のために、有名な美容整形医の男性と会った。その先生、すっごく売れっ子でカリスマの一人として各界の著名人からの信望も厚い。なんだか海外のセレブまでもが飛行機に乗って彼の手術を受けにくるらしいよ。彼、もとは老舗の美容外科で十年以上実績を積み、いまは都心の一等地でクリニックを開業している。
最近の美容外科界の話題やら患者さんの傾向やら、ひととおり知りたかったことを聞き、インタビューはひとまず終了。
そして‥余ったほんのわずかの隙間の時間にその出来事は起きたのだ!ついつい、アタシとしたことが
「いやあ、アタシもですね。目の下のクマが気になるんですよねぇ」
とポロっと口に出してしまったのである。するとその先生、
“待ってました、その言葉!”
といわんばかりにこうおっしゃったの。
「そう!そのとおり。キミはそのクマのせいでものすごく損をしている」
え??やっぱり?専門家から見てもやっぱりこのクマは目につくのかしら?
「キミは目の二重もはっきりしてるし、ホウレイ線も目立たない。なのにその目の下だけが‥‥」
‥‥って。あぁやっぱりこれってよくないクマなのね。自分でもそう思ってただけにプロから指摘されるとグサっとくるわ。
「そのクマはなね、血管の色でも色素沈着でもないんですよ。下まぶたにたまった脂肪なの。年とともに増えてきて、たるんだ感じになるんです。だから影の部分が黒っぽく見えるわけ」
あ、そうなんですか。どおりで年々悪化してると思ったよ。最近じゃ疲れてなくても消えないもん、このクマ。
「その脂肪はね、お腹の皮下脂肪などとは違ってダイエットしてもとれないの。つまり一度出始めてしまったらどんなに努力したって自分じゃ治すことは無理なんです」
そ、そんなぁ〜。キッパリ言われちゃったら、救いがないじゃないのー(泣)
「でもそれは手術で取ることができる。すっごく印象変わるよ、絶対にきれいになる」
えっ?それって、このアンチ整形派のアタシにオペを薦めていらっしゃるの?その手には乗らなくてよ!だってアタシ、絶対に整形だけはすまい、自分の顔に責任を持って生きるんだ!って硬く心に誓って生きてきたんですもん!それに一度オペしたら、また数年後にはやり直さなきゃならないんじゃないの?そんな整形アリ地獄にアタシははまらなくってよ。
「それは取っちゃえばほとんど再発しないから、一生に一度のオペで済むよ」
へ?そーなんですか?たった一度で一生もの?
「目や顎の形を変えるとかとは違うから、ボクに言わせりゃそんなのは整形のうちに入らない。歯を治すくらいのもんですね」
うう〜ん、確かにそうよね。年とともに出てきた脂肪を切り取るだけなんだから、顔かたちに手を入れる整形とはチト違うわよね。もしかしたら、アタシが思うほど抵抗を感じるような問題でもないのかも?このクマがなくなればコンシーラーも必要ないわ。顔が明るい印象になるわ。ならばならば‥‥やったほうがいいのかしら??
「もしもその気なら、世界一と言われるこのボクの手で必ずきれいにしてあげるよ」
うひゃ〜っっ!そ、そんな口説き文句、生まれてこのかた言われたことないですぅ〜〜。
どうしよう、この際ヘンなこだわりを捨ててやっちゃおうかな?整形。
このときのアタシは激しく揺れていた。だって一番気になっていた顔のキライな部分を、いとも簡単にきれいにしてくれるという男が目の前にいるのだ。それも自信たっぷりに微笑んでいるのだ。
7:3くらいの割合で整形を受けるほうに傾きかけたその瞬間。彼のほんの一言で風向きは変化する。
「でもそのクマね、ある種の遺伝なんだよね。年をとっても出ないひともいれば若く殻出ちゃうひともいるし」
え?遺伝?
あぁ、そうかそうなんだ。アタシは二十代のころからこのクマがあった。友達と見比べて、なんで自分だけ?と不思議には思ってたんだけど、そういうことだったのか。そういえば、死んだアタシの父親にもおんなじようなクマがあった。男だからそれほど気にならなかったけど、遺影の写真を見ると自分とすごく似てる。アタシが年をとる毎にだんだん似てきている。
「先生、やっぱりアタシいいです。オペやらない」
気づくとアタシはそう告げていた。
「クマのまんまでいいです。このままいきます」
スーパーファザコンだったアタシは、自分の中に天国の父親と同じものがあることがとても大切なことに感じられてしまったのである。たぶんそれはきれいになることよりもずっと大切。
数日が経ったいま、
“あ〜ぁ、もったいないことしたかなぁ?せっかく間違いなくきれいになれるチャンスだったのにな〜”
と後悔しなくはない。
でもそれ以上に、鏡に映った自分のクマが、ほんのちょっとだけ好きになった。 |