おおたわ 史絵



女医で執筆家のおおたわ史絵さんが見たこと 感じたこと アレコレ。
医学的な根拠にナットク!
 

 もう秋だね。みなさま、夏の思い出は作られたかしら?
アタシは今年の夏、珍しい体験をした。標高2700メートルの高山でのボランティア診療。登山客が高山病やケガをしたときのために夏季限定で開いている診療所で、ナースや医大生と一緒に過ごしてきた。たったの3日間しかいられなかったんだけどね。
なんたってこんなに高い場所で暮らすのは生まれて初めて。酸素が薄いのも空気が軽いのも、すごく不思議だった。
山には電線がない、電気はすべて自家発電。それも夜9時には止まってしまうのね。だから暗くなったら寝るしかない。もしも夜中にトイレに行きたくなったら持参した懐中電灯で手探り状態(笑)
水もたいへん貴重品。高山には湧き水も川も存在しないのでお風呂もない、シャワーもない。3日間ずっと入浴せず!
その他、携帯も通じないし、公衆電話もテレビも山荘に一台きりだし、パソコンもないし。とにかくいつもの暮らしとは180度逆の世界だったよ。

こんなふうに書くと、すっごく不便でサイテーな印象を与えちゃうかもしれないけど‥‥なんのなんの!実際には最高の3日間だった。
お風呂になんか入らなくても、気温が低くて空気が乾いてるので意外と平気。ニオイもしない。携帯もテレビもなくたって全然OK。それより星や雲や日の出を眺めてるほうが数百倍も楽しいもん。ペルテウス流星群のおかげで驚く数の流れ星も見たしね。
あのね、「電気がないからしょうがない」「水が足りないからしょうがない」こういうちょっとした諦めって、すっごく大事だと思った。今のひとって、便利に慣れすぎてるでしょ?なんでもすぐに思い通りにならないとイライラするのはそのせいね。
じつは医者の診療でもそう。都会だったら完璧な診断治療を迅速に行わないと告訴されたりするわけだけど、山の上には器具も装置もなんにもないからね。そのなかで精一杯のことをするしかない。それでも患者さんは
「ありがとう。診てもらって安心した」
 って言ってくれる。
 なんかさ、自然ってみんなが優しくなる場所なんだね。

 今、アタシは東京に戻って通常通りの生活を送っている。忙しないことや理不尽な出来事は相変わらずいっぱい。
 そんな毎日でアップアップになったなら、また来年の夏に山のボランテイア診療に行こうと思う。きっとそれがアタシにはいちばんの薬になる。そんな気がするからね。



 
 
 
 
HOME

 
Copyright (C) 2000-2007 Island Magic Inc. / kireine.net All Rights Reserved.