2000.12.15号
私たちの心や身体に、さまざまな効果をもたらす植物の香り。
現在では、医療の現場でもエッセンシャルオイルを使ったアロマセラピー(芳香療法)が取り入れられ、また、ヒーリングのアイテムとして人気が高まるなど、新たに注目を集めています。
では、なぜ私たちは香りで癒されるのでしょうか?
暮らしの中に、どのように取り入れればいいのでしょうか?
そんな植物の香りに関する疑問を探りながら、エッセンシャルオイルの本当の魅力をお届けします。
第1回「アロマセラピーは植物の力を生かした芳香療法 -前編-」
日本でも医療分野での普及を目指す活動が行われています
アロマセラピーは、ギリシャ語で“植物の香り成分――エッセンシャルオイル(精油)による療法”という意味の言葉が語源。植物から抽出した天然の芳香成分が、私たちの美容に役立ち、さらには心や体の不調を癒し、心身ともにバランスのよい状態に導いてくれます。ヨーロッパでは、アロマセラピーが古くから人々の生活の中に溶け込み、フランスやベルギーなどでは、正式な医療行為のひとつとして認められています。
日本でも一時期、アロマセラピーがブームになりましたが、本来の療法そのものよりも、“香り”の持つイメージが先行し、まるでファッションの一部のようにもてはやされました。また、中には商業主義寄りの粗悪な商品の使用や、まちがった方法での使用による皮膚のトラブルなどが問題になりました。
現在では一時のブームは落ち着きをみせましたが、日本のアロマセラピー事情を憂慮し、その療法を正しく広めようという人々の地道な活動が続けられています。1997年には、医師などの医療従事者を中心に日本アロマセラピー学会※が発足し、科学的・医学的な研究がはじめられました。現在では、一部の医療機関でメディカルケアとしてエッセンシャルオイルを取り入れるなど、その活動は少しづつ実を結びつつあるようです。
※
日本アロマセラピー学会
医療分野でのアロマセラピーの普及を目的とし、医師などの医療従事者を中心に組織されている研究団体。アロマセラピーに関するさまざまな臨床実験を行い、現在では、学術的な研究報告が発表されはじめている。
エッセンシャルオイルとはどのようなものでしょうか?
エッセンシャルオイルは精油とも呼ばれ、植物によって花・葉・枝・実などから抽出されます。1種類のエッセンシャルオイルの中には、数多くの成分が含まれています。エッセンシャルオイルそのものは、人間にたとえると血や体液のようなイメージがありますが、実はそうではなく「汗」にあたります。
植物の油腺から出ている芳香物質には、虫をおびき寄せたり、逆に寄せつけなかったり、また、植物自体をコントロールするなどの働きがあります。中でもとくに香りの強い植物は、それだけウイルスを撃退する力が強いことが分かっています。
つまり、エッセンシャルオイルは体液などの水溶性成分ではなく、身体の代謝機能のために発散させているもの、つまり「汗」を集めたものというわけです。実際、人になんらかの優れた効果を発揮するのも香りの強い芳香植物なのです。
なぜ、植物の香りが優れた効果をもたらすのでしょうか?
通常、エッセンシャルオイルは水蒸気の力によって芳香物質を引き出す、水蒸気蒸留法によって抽出されます。エッセンシャルオイルに含まれる芳香成分は揮発性で、空気より軽い分子。そのためすぐに蒸発して、空気中に香りを拡散させます。
人が香りをかぐと、その芳香成分は鼻孔を通ってまず嗅細胞に届き、さらに大脳へ伝達されます。大脳は感情・記憶・行動といった、人間の本能を司っているところ。そこへ芳香成分が伝達されると、快・不快などの感情が生まれます。
また芳香成分は脳の中でも、おもに海馬や縫線核、下垂体などを刺激します。それらの部位が刺激を受けることによって、脳の中で鎮静作用やリラックス作用などを起こすさまざまな物質が分泌され、その結果、鎮痛・緩和・リラックスなどの効果をもたらすのです。
海馬や縫線核など刺激を受ける部位は、エッセンシャルオイルの成分内容によって異なり、さらに、その刺激により分泌される物質も、その効果もさまざま。たとえば、ラベンダーとジャスミンを例にとってみましょう。ラベンダーは縫線核を刺激し、セトロニンという物質の分泌を促し、鎮痛・リラックス作用などをもたらします。
ジャスミンは下垂体を刺激し、エンドルフィンという物質の分泌を促し、抗うつ作用などをもたらします。つまり、どのエッセンシャルオイルに、どこを刺激されて、どんな物質が分泌されるかによって、効果がちがってくるわけです。また、マッサージの場合は鼻からだけでなく、皮膚からも芳香成分が吸収され、同じように身体にその作用を与えます。
「植物の恵み エッセンシャルオイル図鑑」の第1回では、エッセンシャルオイルについて、また、芳香浴のメカニズムなどについてお届けしました。次回は、実際のエッセンシャルオイルの選び方、アロマセラピーの楽しみ方などのポイントをご紹介します。
(いのぐちあきこ)
■取材協力/
植物療法研究家・森田敦子さん
日本アロマセラピー学会会員。
フランスで植物療法を学び、帰国後、信州大学において有機系天然抗菌剤の研究、ディフューザーの開発などに携わる。
1998年サンルイ・インターナショナル設立。
現在は、大阪大学におけるアロマセラピーの研究に参加、また、さまざまな施設へのアロマセラピーの提案、人と環境にやさしい商品開発など、植物療法家として活動中。
■参考資料/
「アロマテラピー完全マニュアル」草隆社
「アロマテラピーのための84の精油」フレグランスジャーナル社
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