2006.6.14号




 第十九話 ウニ


初夏から夏にかけて旬を迎えるウニ。濃厚でまったりとした甘みは、そのままで最高の肴であり、最高の寿司ねたです。だからこそ、料理にアレンジするというのは難しいとか。そこで今回は、ウニと何が合うのか、そんなことを試しながら、スペインの小皿料理・タパスのように、少しずつたくさんの美味を試しながらの会となりました。思いもかけない素材との組み合わせに、乞うご期待。 
寿司幸本店




タパス感覚でいろいろと

ウニ好きには天国!そんな宴が、今回の魚&肴の取材でした。なにしろ、ウニをアレンジした小皿が十数種。これでもかと、食べ続けるのですから。とはいえ、心配は無用。ウニ嫌いは参加していないわけで、一同、陶然と夢心地のときを過ごしたことはいうまでもありません。
銀座寿司幸本店主人・杉山さん曰く「ウニの旨みというのは、それ単体で完成された主張の強いもの。だから、料理へのアレンジが意外に難しいんですね。熱を加えることで、旨みが増すというよりも、むしろ逆。ただ、その強烈な主張を相乗効果で高める食材というのがあるはずです。」もちろん最高のパートナーの一つは酢飯であるわけですが、実は杉山さん、スペインの視察旅行から帰国したばかり。タパス()自慢のバル()を十軒近くまわり、それぞれの個性やクオリティの高さは予想をはるかに超えていたと、感心しきり。今回はそのタパス感覚で、ウニ+SOMETHINGの小皿を、次から次へと楽しみつつ、ウニと素材の相性を探ろうという試みでした。
タパス 
 バル
スペインの小皿料理。身近な食材で作る酒肴。
Barのこと。カフェスタンド兼ショットバー。

ウニの種類と味わい

今回使用したウニは全部で3種類。夏場は産卵を控えて身が充実し、味わいもぐっと濃くなります。一般には希少な分だけ、紫ウニの方が高価、甘みも強いと言われていますが、固体差が大きく、一概には決められません。ちなみに、本日の2種のうちでは、甘みという点では、馬ふんの勝ち。箱に並べられているこのタイプは、ご存知の通り殻を割ったウニから中身を取り出し、みょうばん水にくぐらせています。というのも、この処理をしないと、輸送の間に流れ出てしまうから。みょうばんの若干の苦味が残るのが難点といえば難点ですが、いたしかたないともいえます。もう一つの、塩水浸けは、北海道・枝幸の産。全くみょうばんを使っていないナチュラルな味が魅力ですが、塩水につけることで、ねっとり感がなくなり、甘みも控えめなあっさり味になるようです。ちなみに紫ウニが1箱¥15,000、馬ふんが¥9,000。塩水浸けが¥3,000。いずれも築地で最高級品の値段です。ウニの握り一貫が数百円から千円というのも頷けます。


引き立てるさっぱり味。相乗効果の濃厚味。

では、ウニには何が合うのでしょう。
「濃厚なこってりとした甘みを楽しむという観点で考えれば、イカや白身の魚など、比較的さっぱりとしたものという考え方がまずあります。一方、卵黄や生クリームといった濃厚なものとも合い、お互いに引き立て合うケースがあるという点がウニの魅力を深いものにしているのです。また、ウニは海藻を食べて育ちます。泳ぎまわるわけではないから、海藻が豊富な海のウニは当然おいしく、昆布の旨みと合うのは必然といえますね。」
杉山さんからこんな説明をひとしきり受けたあと、いよいよ、宴の始まりです。



スプマンテを注いで華やかに幕を開ける
何とスターターは意表をついて、ウニとじゅん菜のスプマンテカクテルでした。グラスに塩水浸けのウニとじゅん菜を入れ、勢いよくスプマンテを注ぎます。スプマンテはシチリアのカスタ・ダルメリータというワイナリーのもの。というのも、シチリアはイタリアの中でも唯一、殻を割って生のウニを食べるエリア。だからシチリアのスプマンテを、という洒落た提案なのです。しっかりとボディがあり、それでいてキレのよい味わいは、ウニを包み込んで華やかに香りました。また瞬時にスプマンテでマリネされたウニも、微炭酸の中にほろ苦味と酸味を含んだ、さらに複雑な味へと進化していました。ただし、時間をおくと、ウニの磯臭さが出てしまうので、小さめのグラスで、少量を短時間で飲みきってしまうのがおいしくいただくコツのようです。
次は富山門前豆腐の昆布締めのざる豆腐。薄くそぎ切りにした豆腐の上に紫ウニを一片。アクセントにオリーブ油とこしょうを少々。あっさりと、しかも旨みを含んだ豆腐が、濃厚なウニの味覚をくっきりと引き立ててくれました。

至福の一杯を選ぶなら…

続いて半熟卵との組み合わせが供されました。とろりと溶け出るほどにやわらかい黄身に、馬ふんウニのオレンジ色が重なって、見るからに好相性。口の中で、コクとコクがひとつに溶け合い、さらなる旨みとなって口中を満たす過程は圧巻でした。味の組み合わせの良し悪しは、色の相性とも深く関係するなと、強く感じたひと品です。
次のひと品は意外や意外、バナナとの組み合わせです。えっ?フルーツ?甘いものと?と驚くかもしれませんが、これが違和感がないのです。ふんわりとしたバナナの甘みが優しくウニの旨みを包み込み、けれど余韻にはウニの旨みがぐっと長く残ります。キャラメルのソースをかけたら、洒落たデザートになるのでは、という声も外野では上がったほど。バナナはなるべく熟しているものを、そして薄めにカットするのがポイント。
そして口直しに練りウニとアスパラの細巻きが続きます。北海道育ちのアスパラなら、ウニとも相性がよいのでは、という読みは的中でした。
そして白魚との組み合わせが続きます。白魚をこんもりと笹の葉にのせて、煮きったみりんの中に沈めて火を通します。ほのかに甘く煮えた白魚のできあがりとなるのですが、これは古くからの江戸の仕事だそう。ひと口大のすし飯の上に白魚、ウニと重ねると白とオレンジ色のコントラストが綺麗。品のいい甘さの中にウニが見事なアクセントになりました。


乳製品でリズムを変える
そしてもう一つ相性のよいものに乳製品があります。小鍋に牛乳を入れ、直接昆布を入れて温め、昆布の旨みが充分出たところで、削りかつおをたっぷり入れて、だしをとります。要するに、ミルクかつおだし。塩少々で調味し、くさみを消すために生クリームを少々。グラスの中にはスプマンテのスターターと同様、ウニとじゅんさいが沈められ、そこへ温めたミルクだしが注がれます。同じ組み合わせが、まったく違った味わいへと変化を遂げました。洋と和の見事なマリアージュ。杉山さんの懐の深さに脱帽です。
次は、焼き蛤との組み合わせ。蛤の口があいたら、白ワインをたらします。「温めたものの上にのせると、パーッと香りが広がるはず」と杉山さん。見事な蛤に、皆感嘆の声を上げていると、「最近はバチもんが多いでしょう」と杉山さん。確かに、巷には韓国産の蛤が横行し、国産品は押され気味。バチとはなんの略ですか?と聞けば、「場違い」と即答。なるほど、それでバチもん。粋な江戸っ子がいちばん嫌ったものだとか。ところで、蛤とウニですが、これが不思議なことに、今までどんな素材と合わせてもウニの旨みや余韻が勝っていたのに、蛤は別。蛤の旨みが長く長く残りました。


フランスパンの登場でいよいよタパスに
そして、第3コーナーを回ったあたりで、フランスパン+ウニという、さらにタパスに近いアレンジが始まりました。まずは、薄く切ったフランスパンにそのまま生ハムをのせ、上にはウニをたっぷり。生ハムのアミノ酸的旨みと塩気、それにウニが、また抜群の相性。バナナや白魚のような甘みに合う反面、塩けも呼ぶんですね。外野からは盛んに、薄く削ったパルミジャーノをふりたいという声が上がっていました。これも、さらなる塩けとアミノ酸を欲している証なのかもしれません。

至福の一杯を選ぶなら…

第二段は、のれそれのアーリオーリオ。スペインの名物といえば、うなぎの稚魚――アンギュラス、にんにく、唐辛子、オリーブ油煮です。スペイン帰りの杉山さんは穴子の稚魚・のれそれで代用。にんにく、赤唐辛子は控えめにして、さっぱりとしたアーリオーリオに仕上げ、パンにのせ、ウニをたっぷり。ウニ好きという嗜好の持ち主であるなら、ウーンとうなること間違いなしの完成度の高さでした。
もう一つ、溶けるチーズをのせてオーブントースターで焼き、ウニをプラス。ここまでくると、もう、おすし屋さんにいるんだか、バルにいるんだか、そんな心境です。ただ、一ついえることは、バルではこれだけのグレードのウニは出てこないだろうということ。
 さて、タパス攻めはまだ続きます。取りいだしたるは、ほくほくにゆでた北海道産のじゃがいも。粗くつぶして、半熟卵とウニを加えてざっくり。北海道生まれのじゃがいもも、見事にウニを受け止めてくれました。薄く削ったパルミジャーノをふってもいいかもしれません。
続いて登場したのが、500gもあろうかという大原の蒸し鮑。貫禄をたたえたその見事な姿態に圧巻!それほどまでに立派な鮑なのです。飴色がかった鮑とオレンジ色のウニのコントラストの美しいこと。期待に胸をはずませながら口に含むと、これ不思議、蛤と同じ現象。鮑の方が勝ってしまうのです。


小吸い物からエピローグへ 
魚のすりみと白えびを合わせてさっと練り、熱湯でさっとゆでれば即席しんじょうのできあがり。すっぽんスープに浮かべて、ウニを添えて、小吸い物に。ふわふわとした、はかなげでやさしいしんじょうと、とろけるウニの食感はいかにも大成功。
最後に赤だしではありませんが、ごはんに移行する前の〆の小吸い物として出されたのがコンソメです。コンソメといえば、動物性の旨みを凝縮させたエッセンス。こうなるとほとんどフレンチの世界ですが、これがまた格別の相性。蒸したずわいがにの足を盛った小鉢に温めたコンソメを注ぎ、ウニをのせ、パセリをぱらり。蟹はなくてもいいのでは、という声があがったほど、コンソメとウニの取り合わせは完璧でした。
そして〆は、土鍋に昆布を敷きつめ、最後にバターを落として炊き上げたリッチなバターごはん+2種のウニ。文句なくおいしいのですが、わがままな外野は、すし飯でも合わせたいとリクエスト。あらためてすし飯との組み合わせに感激し、さらには、残っているウニを全部おかわり。当然のことながら完食となったのでありました。

小松宏子


writer's eyes

 一生にこれほど、ウニを立て続けに食べることがあるだろうか、そう思わせられるほどの、見事なウニづくしでした。参加者の中には、尿酸値やコレステロールを気にしながら、命がけで食べた人も・・・。それほどに抗いがたい魅力を持った素材だということです。
そして何より印象的だったのが、あれだけのインパクトの持ち主でありながら、甘辛、濃淡と、実に柔軟な相性を見せてくれたこと。しかしながら、試していくと、淡白であっても、旨み成分のしっかりした素材が相性がいいのだということが判明。考えてみれば酢飯であるごはんもたんぱく質は豊富です。だからさっぱり系といっても、きゅうりにのせたり、レタスに包むということはありえないわけです。合わせる素材に旨みがないと、アミノ酸にコーティングされない分、生臭さが出てしまうのでしょうか。
今回は全部北海道産のウニでした。本来は、四国の品が届く予定だったのが、交通事情で宴には間に合わず、残念。九州のウニなどは、ぐっと小粒で、その分味も凝縮しています。これも餌である海藻の違いからくるのでしょうか?日本全国でとれるといウニ、次は地域差を試してみたくなりました。一生分のウニを食べたと思った矢先からそんなことを考えるとは、それこそコレステロールが心配です。

「魚&肴」の連載は、今回のウニをもって、最終回とさせていただきます。3年以上の歳月の中で魚の魅力に触れ、寿司の奥深さを知り、また、アレンジを加えるご主人・杉山さんの深い知識と料理人としてのセンスに毎回驚かされることばかりでした。今後もまた折りにふれ、新しいトピックスやテーマのもとで、杉山さんにご指導いただく機会が持てれば幸いです。拙文にお付き合いいただき、ありがとうございました。



■取材協力/ 銀座寿司幸本店 主人 杉山 衛さん
  明治18年銀座に創業した、老舗寿司店の四代目。
古い仕事を守ると同時に、ワインと寿司のマリアージュなど、新しい時代の風を取り入れることにも熱心。
魚を見る目や扱いにかけてはもちろん、歴史やうんちく、栄養的な情報まで、幅広い知識を持つ。

2002年10月、丸ビルにも店舗を構え、若い女性の寿司幸ファンを増やしている。
(丸ビル店 03-3240-1908)



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