2001.4.20号




 春は「スタート」の季節。新しい環境、生活、友だちに慣れるために、身体だけではなく心も忙しく働いているのがこの季節です。張り切ってスタートしたのに、なんとなく気持ちや身体が妙に疲れている、そんなことはありませんか。今回は新生活に伴う心の疲れについて、連載コラムでもおなじみの、内科医で心身医学にも詳しいおおたわ史絵先生とともに考えてみました。


念願の新生活をスタート、それなのに身体が不調に

春の華々しい雰囲気に反して、この時期、受験に失敗した学生はどんな気持ちでしょう? しばらく友だちにも会いたくないと思うかも。職場で異動になって希望していない部署に行くことになった、これも憂鬱ですよね。春が大好きなライターにも、こんな辛い「春」が過去にありました。心のストレスたまりそうですね。ところが、こんなケースもあるのです。

 ケース1 

 希望していた会社に就職した美穂さん。憧れていた一人暮らしも、スタートしました! 一人暮らしは快適だし、新しい職場で張り切っていたのでそれなりに忙しいもの。だから寂しい、不安などと考える余裕もなかったといいます。ところが、少したつと「舌にボツボツができている」「肌に小さなできものができた」「もしかして、これは何か重大な病気の前ぶれでは?」と考えた美穂さん、何度も何度も病院を訪れます。でも、調べるとどこも異常なし。医師にそう言われても、また別の身体のちょっとした変化が気になり受診します。結局3ヵ月ほどすると、いつのまにかこの「心配ぐせ」がなくなり、落ち着いた生活に戻れました。



ストレスは何かを「獲得」しても生まれるもの

美穂さんの症状は、医学的には「心気妄想」といったもの。普段なら気にもしないちょっとした身体の変化に敏感になり、「どこかおかしいのでは?」といった気持ちが高まって何度も受診するという症状です。この「心気妄想」になるきっかけのひとつが、実は大きな環境の変化なのです。

「普通、ストレスというと環境の悪い変化で引き起こされると皆さん思ってますよね。たとえば、仕事で左遷された、受験に失敗した、失恋したという喪失体験です。でもね、それだけじゃないんですよ。実は、獲得体験でもストレスは引き起こされるんです。栄転やヘッドハンティングによる転職、結婚、出産、新築して引っ越した、どれもプラスの変化。でも、心にはストレスがかかってるのです。そもそも、人間はそんなに次々に新しい環境を求める生き物ではないのかもしれませんね」(おおたわ先生)。

 なるほど! これは案外、盲点です。とくに今の世の中は、社会が早いスピードで変化しているので、私たちの心も身体も大忙し! ハッピーな新生活でも心は忙しさですりへっているのかも。 美穂さんの症状がおさまつたのは、3ヵ月ほどたって心身ともに環境になじんだからともいえます。

  もうひとつ、環境の変化がもとで起こるものに「円形脱毛症」があります。これは決して男性だけの病ではありません。「円形脱毛症」は見えにくい位置にできるので、本人が気づくよりも美容院で発見されたり恋人などパートナーに発見されるケースが多いそうです。「じわじわとくるマイルドなストレスで出ることが多いですね。自然に治ることもありますが、気になるなら皮膚科で外用薬を処方してもらうといいでしょう」(おおたわ先生)。 「心気妄想」も「円形脱毛症」も深刻な病気ではありませんが、心がゆっくり休みたいとSOSを出しているんですね。



まわりの人とうまくおつき合いができず、うつうつ

 環境そのものは変化しなくても、人間関係が変わるのも春ならではのできごとです。たとえば、職場に新人が入ってきた、上司が変わった、子どもの進学などにともないPTAの顔ぶれや担任の先生が変わったなど。出会いは楽しい反面、自分と合わない人が身近に来る可能性だってあります。

 ケース2 

淳子さんは子どもの幼稚園入園とともに、父母会の役員を引き受けました。人前で発言するのはただでさえ苦手なので、役員も断りきれずについ、が本音。案の定、話し合いが進むと、自分ばかり仕事が増えるように感じます。でも、どうしても「できない」「ほかのやり方にしては」といった意見が言えません。無理にまわりにあわせているうちに気持ちもぎくしゃくしてきて、会合に出るのが苦痛になってきました。それどころか、最近は食事をつくるのも友達に電話をするのも嫌。うつうつとした気分が続きます。



うつ状態は心の風邪。自分の性格をよく知ろう

 淳子さんのようなケースは、実は珍しくないとおおたわ先生は言います。「「軽いうつ状態」は、誰にでも起こりうること。心が風邪をひいたようなものです。身体の風邪をひかない人なんていないでしょ。心も同じ。ただ、うつ状態になりやすい性格はあるので知っておくのはいいですね。」ちなみに、仕事の手を抜かない、きまりは必ず守るなど几帳面で真面目な人は、うつ状態に陥りがち。下の簡単なテストでチェックできるので、ぜひチャレンジしてみてください。

 もしこのテストで、うつ状態になるリスクが高いと出たら、どうしたらいいのでしょう。「真面目なのはいいことなんですよ。でも、あれもこれもきちんとやろうと思わないこと。あれかこれのどちらかで十分(笑)。まわりの人、全員と均等に仲良くうまくつきあおうと思わない。もし、外のおつきあいがうまくいかなくても、家族はどうでしょう。夫や恋人と、あるいは夫と子どもとあなたの小さなユニットが信頼できる揺るぎないものなら、心の風邪も乗り切れますよ」とおおたわ先生。

 そう覚悟を決めたうえで、淳子さんのようなケースならたったひとつでも、小さなことでも発言してみるのが前向きの解決法だそう。もちろん、ゆっくり休んだり、趣味に夢中になったり、ときには悪口を言い合うことも心の風邪の処方箋ですが、根っこにある問題をぬぐいさるのはあくまで自分。おつきあいがうまくいかないのは、あの人が悪い!と心を閉ざさず、まず自分をほんのちょっと変えてみることが解決の一歩になるようです。



うつ状態は表情も変えてしまう!

最後におおたわ先生から、重要な一言が! 「うつうつしていて、笑わず話さず、いつも難しい顔。こんな表情を続けていると、まず口のまわりの口角筋が衰えてたるみます。これは加齢によるしわとは違うんですよ。眉間のしわも、ストレスが高い人にできるもの。さらに悩みを抱えていると猫背にもなりやすいですね。」

 つまり、ストレスを抱えつづけていると、年より老けて見えてしまうのです。
もし、どうしても気分がすぐれないなら、メイクや服装を春らしく明るくする装いの変化で気分を盛り上げるのはどうでしょう。 桜が終わり、ゴールデンウイークもそろそろ。休み明けには、すっきりした気分で歩きたいですね!

(小林育子) 


以下の項目で自分に当てはまるものをチェックしてみましょう。もちろん、これはあくまで目安。リラックスして毎日過ごすことが、どのタイプの人にも大切!

規則やきまりは必ず守る
大勢でものごとを決めるとき反対意見があっても言わない
真面目で几帳面な性格だと思う
けんかや争いごとになりそうだと、自分の意見はひっこめる
失敗するとつい自分を責めてしまう
仕事の手は抜かない
ウソがつけないタイプだ
他人が自分をどう見ているかが気になる


うつ状態になる心配は少ないほうです。今までどおりの生活・おつきあいペースでだいじょうぶでしょう。


少し注意が必要。まわりへの順応性がやや少ないので、場合によってはうつ状態で悩むことも。何でも話せる友人をみつけて。仕事や生活も、もっと息抜きをしながら進めてOK。


うつ状態になるリスクが高し! おつきあいや仕事に疲れていませんか? 一日に仕上げるべきことを減らしましょう。時には思い切った気分転換をしたり、休暇をとってみることをお勧めします。

writer's eyes
チェックテストの結果は、私は2つ。そう、私ってルーズで大ざっぱで順応性が高いのかも(笑)。でも、もう少し若いころだったら6つはチェックしたはず。人前で話すなんてとんでもないという性格だったのです。決して、オバサン化したから性格が変わったのではありません! 実は、コメントをいただいたおおたわ先生も、子どもの頃は内気で自己主張が苦手だったそう。人間って変わるんですよ。

■取材協力/ おおたわ史絵先生プロフィール
内科医、執筆家。東京女子医大卒業。医師の仕事のほかに雑誌連載、テレビ、ラジオでも活動中。心身医学にも詳しく、女性の心の裏側に迫った著書『ウーマニズム症候群の女たち 癒されない私へ』(TOKYO FM出版)が好評。



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