2001.6.29号



たんぱく質、食物繊維、ビタミン、ミネラルを豊富に含む豆。
各国のおいしい知恵とヘルシー志向が一つになって独特の豆料理の文化が生まれたニューヨーク。
世界の市場をエネルギッシュにリードしていくニューヨーカーのパワーの源でもあるのです。


 NYのデイリーな食シーンに欠かせない豆

 デリカテッセン、ケータリング、スープ専門店……、ニューヨーカーの日常の食を支えるカジュアルなフードショップに足を運ぶと、さまざまな豆料理が目に飛び込んできます。ズラリと並ぶテイクアウトサラダバーのうち、半分近くが豆類のバリエーション、などということもしばしばです。また、ランチタイムともなれば、そうした豆のサラダやスープを買って足早にオフィスに持ち帰るエグゼクティヴやワーキングウーマンをよく見かけます。また市内の高級スーパーマーケットでも郊外の大型店でも、乾燥豆類、豆の水煮缶、調理缶詰など、素材としての豆類も必ず大きなスペースを占拠しています。



 NY豆料理の主役は

 遠目にもカラフルなそれらの売り場。では、どんな豆が使われているのかと見てみると、レンズ豆、ブラックビーンズ、ガルバンゾー、キドニービーンズ、リマビーンズ、ムング豆、スプリットピーなどなど。日本のお惣菜屋さんの煮豆のコーナーに並ぶ豆とはずいぶん様相が違います。ニューヨークきっての高級スーパーマーケットDEAN&DELUCAでは、上記の豆に加えてフラジェオレット、ジャイコブスキャットル、カリプソなど、日本ではまずお目にかかれない珍しいものまで含めて、30種以上の豆が売られています。
まさに世界の豆に出会えるといっても過言ではありません。そして同店の惣菜コーナーには常時4〜6種ほどの豆のサラダと3〜4種の豆のスープが用意されています。ニューヨークの食をリードする先端のマーケットだけあって、意識の高いニューヨーカーの食事情を象徴しているようです。



 なぜ、NYにこれほどの豆料理が

 ではなぜ、ニューヨークでこれだけ豆の料理がもてはやされ、定着しているのでしょうか。人種のるつぼであるアメリカ、当然さまざまな食文化や食習慣を持った人々が混在しています。宗教上の理由によるベジタリアンも大勢いれば、アメリカ人ならではの健康志向からベジタルライフを送る人もいます。また、イタリア、スペイン、南米、アフリカ、中近東、インドなど、世界的にも豆の大消費国である民族が、移民として渡り、彼らの食文化を根付かせたことも理由に挙げられます。実際NYで食べられている豆料理のルーツをさぐれば、それらの国々へと行き着くものがほとんどです。ベジタリアン、健康志向、各国の豆料理、この3つの要素がからみあって、ニューヨークが世界でも類まれなビーンズクッキングの街となったのです。



 豆の栄養いろいろ

 大豆の栄養価の高さは日本人なら誰でも知るところですが、乾燥した豆類はいずれも豊かな栄養分を秘めています。全体的な特徴としては、良質な植物性たんぱく質がふんだんなこと。食物繊維が、ひとつかみで1日の所要量の1/4 も摂れるほど豊富なこと。また、脂肪の代謝を盛んにするビタミンB1の存在。きれいな髪や爪には欠かせないカルシウム、代謝をスムーズにする亜鉛や、女性には不足しがちな鉄などの微量栄養素も含んでいること、 などが挙げられます。ストレスの多い現代社会において、豆は「きれい」と「健康」の宝庫なのです。



 色で見分ける豆知識

 東洋医学では食物の色と身体の働きとを結びつけて考える習慣がありますが、その観点から豆を見ると、色別に身体への効果の違いがあることがわかります。

・赤い豆 心身の働きを活発にして、利尿作用や解毒作用があります。小豆の利尿効果はまさにこれにあたります。
・緑の豆 鎮静作用や熱をさます効果があります。
・黒い豆 生命力の源をつかさどり、身体をつややかに保ちます。
・白い豆 身体をすっきりとさわやかにします。
・黄色い豆 胃腸を丈夫にします。

形も色もさまざまな豆ですが、言われてみると、なんとなくうなずきたくなる効果ばかりではありませんか。少しずついろいろな豆をミックスしたサラダやスープも見た目の華やかさばかりでなく、栄養的にもちゃんと理由があったのですね。アメリカには数種の豆に粉末のスープストックがついた、もどして煮込むだけの、ミックススープなどの商品(写真)もあります。 栄養成分表とにらめっこするのではなく、色で遊ぶ、こんな考え方で楽しんで食べるのもよいでしょう。

ここではNYビーンズライフの主役たちのそれぞれの栄養素と簡単な特徴を記しましょう。

・レンズ豆 平たくて凸形のレンズの形をしていることからの名称。原産地に近いフランス、イタリアなどでよく利用されます。なんとあの小さな粒の24%がたんぱく質で、鉄分、ビタミンB群、また食物繊維も豊富と、優れた栄養源です。粒が小さく平たいので水に浸さずにすぐに調理できるのもメリット。
・ガルバンゾ豆 別名をひよこ豆、チックピー。
西アジアが原産で、中近東の料理やインドの家庭料理には欠かせない豆。同様にたんぱく質を多く含むほか、鉄分の含有量が多いのも嬉しい点。浸水とボイルに時間がかかるので、水煮缶詰を利用するのも便利です。くせのない味とぽくぽくとした食感が魅力で、カレー風の煮込みはもちろんサラダにも。中近東の料理では、豆をペースト状にしたフムスが有名。
・キドニービーンズ 別名は赤いんげん豆
原産地は南米。メキシコからアメリカにかけてのチリコンカルネやエンチラーダなどでおなじみです。いんげん豆の兄弟は多く、赤、白、黒、緑などの色が違うほか、産地によってサイズも名称も異なります。キドニービーンズとして売られているものは長径1.5cmくらいのミディアムサイズ。鉄分を豊富に含み、カルシウムも期待大。皮がかたく、ゆで時間はかかりますが、その分食物繊維も豊かです。
・ムング豆 インド原産の、インド料理には欠かせない豆。緑のこの豆は、中国で春雨の原料になるあの緑豆です。皮ありと皮なしがありますが、皮なしで挽き割りにしたタイプは、レンズ豆同様、水につけずにすぐに煮ることができます。小ぶりなわりにほっくりとした甘味があるのも魅力。ビタミンA、B群が豊富なほか、カルシウムと鉄分の含有率も高く優秀です。
・ブラックビーンズ 日本の黒豆(黒い大豆)のことではなく、小ぶりのいんげん系の豆です。南アメリカが原産で、ブラジルの煮込みフェジョアーダに欠かせないほか、にんにくや玉ねぎと一緒に煮込んでペーストにするなど、ラテンアメリカでは特に好まれています。鉄分、亜鉛などのミネラル類を多く含むので、体調を整えてくれます。
・スプリットピー おなじみのグリーンピースを乾燥させたもので、二つに割れた挽き割りの状態で売られています。フランス語でポワ・カッセ(壊れた豆)の名で呼ばれるのもそのため。鮮やかなグリーンとともにビタミンA、Bが凝縮されています。

 これらの豆類の栄養素はいずれもべータカロチンが加わると一層その働きが活発になります。ですから、たくさんの野菜と組み合わせるNYスタイルのサラダやスープは大変に利にかなっていると言えるのです。



 これからの豆・新しい食べ方

 日本でも長い間、大豆をはじめ多くの豆製品が日本人の食卓と健康を支えてきましたが、大豆以外は砂糖を加えて甘く炊くという伝統が、逆に豆料理としての広がりを閉ざしてしまったようです。しかし、これだけ身体を健康に、きれいにしてくれる食材を放っておく手はありません。和の食卓にも、NYの豆料理を見習って、甘くない豆料理を取り入れてみると、ぐっとヘルシーの幅が広がるはずです。

最後にNYスタイルの簡単でおいしいレシピを二つほど紹介します。ぜひ試してみてくさい。

べーコン、ピーマン入りレンズ豆のサラダ

1. レンズ豆1 カップを小鍋に入れ、 白ワイン、水各1/2 カップ、塩少々を加えて20分ほどゆでます。

2. その間に赤ピーマン1個はオーブンで黒くなるまで焼き、皮をむいてサイの目に切ります。短冊に切ったベーコンは弱火でカリカリになるまでソテー。

3. フレンチマスタード、白ワインビネガー、オイル、塩、こしょうでフレンチドレッシングを作ります。サラダ菜、ベルギーチコリ、トレビュスなど好みの葉野菜は一口大に。

4. ほどよい柔らかさに煮えたレンズ豆をざるにあげ、赤ピーマン、ベーコンと合わせてドレッシングで和えます。冷蔵庫で30分ほど冷やし、いただく直前に葉野菜を混ぜてできあがり。

ガルバンゾ豆のピューレ「フムス」

1. カルバンゾ豆はたっぷりの水に一晩つけてもどし、さらに水をかえて2時間ほどやわらかくなるまでゆでます。

2. ざっと水気をきってフードプロセッサーにかけ、途中つぶしたにんにく1片、レモン汁1個分、オリーブ油1/2カップ、塩適量を加えてさらに回し、なめらかなピューレ状に仕上げます。
ピタパンやファラフェルなど、中近東の平たいパンを添えてどうぞ。

なにしろミドルイースタンの料理はこれがなくては始まらないというほどみんなの好物。
前菜に、箸休めに、一度食べるとやみつきになることうけあいです。

小松宏子) 

writer's eyes
ソーホーにあるモダン家具店のオープニングパーティでのこと。
黒いシャツに黒いパンツのギャルソンたちが、小さなキッシュやパイをのせたプレートを携えてサービスしてくれました。
なんと、どのプレートも、豆が敷き詰められているのです。
一皿ずつ異なった豆模様の上に並んだオードヴルはとても可愛らしく印象的でした。
豆だけで、それだけアートできるのも ニューヨーカーならでは。
そんな型にはまらない、豆の食べ方や扱い方が、和食の中にもそろそろ登場してほしいと、NYでいろいろな豆料理を食べるにつけ、感じるこの頃です。



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