2001.9.14号




最近、若い人の間でも白髪が目立つ人が増えているようです。遺伝やストレス、加齢など白髪の原因はいろいろ言われていますが、なぜ白髪になるのか、ハッキリとしたメカニズムは分かっていません。その対処法としてもっとも一般的なのがヘアダイ。でも、ヘアダイを続けると髪のパサつきなどのダメージを避けられないのも確か。もっと安心なものがあれば…、そんな声が増える中、植物染料の「ヘナ」がひそかなブームになっています。


古くから染料や薬、魔よけなどに活用

 ヘナはインドや北アフリカを原産地とする植物。英語名のHENNAから日本ではヘナ、またはヘンナと呼ばれています。正式な和名は指甲花(シコウカ)、またはツマクレナイノキといい、ミソハギ科に分類。ラテン語ではLawsonia(ローソニア)、インドではMehandi(マヘンディ)と呼ばれています。木の高さは3〜6mの低木で、葉は緑色をした幅1cm、長さ2cmくらいの卵型の楕円形。このヘナの葉が古くから染料として、また魔よけや呪術的なものとして利用されてきました。古代エジプトでは頭髪や眉毛、ひげ、爪をヘナで染め、クレオパトラが愛用していたことでも有名。また、インドやエジプトでは結婚式やお祭りの時に、ヘナで手足に模様を染める習慣が今でも残っています。
ヘナの木

ヘナの葉を乾かしているところ
 ヘナの薬効も昔から注目され、その葉や茎を粉にしたものが薬として活用されてきました。その殺菌効果から中東では水虫の常備薬に。またインドの伝承医学アユールベーダでは、ヘナの葉で作った軟膏を切り傷の治療に役立てたり、葉を煎じた汁で皮膚の炎症や火傷の治療を行なったり。その他、ヘナの花と実をしぼったヘナオイルを頭痛薬として額に塗るなど、その優れた薬効で人々に重宝されてきました。
現在ではおもにヘアカラーやトリートメント剤として活用。原産国のインドをはじめ、欧米諸国ではドラッグストアなどで手軽に手に入るほど広く浸透しています。日本の美容界ではヘナの歴史はまだ十数年ほどで、まだまだポピュラーなものではありません。けれども健康志向の高まりとともに、ヘナの注目度もアップ。最近ではあちこちの自然食料品店で目にするようになり、ヘナを扱う美容院も少しづつ増えています。



インド北西部ラジャスタン地方のヘナが最高品質

 現在、ヘナはインド、ネパール、パキスタン、イラン、中国南部などの西南アジア、エジプト、モロッコなどに広く自生。ワインが産地によって味わいが異なるように、ヘナも産地やその年の気候などによって出来具合が微妙に異なります。もっとも品質に定評があるのは、インド北西部のラジャスタン地方のもの。さらにその中でも、11月から4月に収穫されたヘナの葉のみから作られるものが、とくに品質がよいと言われています。日本で多く見かけるのはおもにインド産のもの。一般にエジプト産のヘナは乾燥度が高く、日本人の髪質には不向きで、インド・パキスタン産のものが日本人に合うと言われています。
天然100%のヘナはきれいなうぐいす色の粉末で、見た目はまるで抹茶のよう。香りもほのかに抹茶を思わせる、干草のような優しい香りが特徴です。
ヘナの粉




ヘナの赤色色素がケラチンにからみつくことで染色

 ところで、なぜヘナで髪の毛が染まるのでしょう? ここで毛髪の構造と、一般的なヘアダイとヘナによる染色の違いを簡単に説明しましょう。毛髪は内側から髄質(メデュラ)、毛皮質(コルテックス)、毛表皮(キューティクル)の3層から構成されています。髄質は蜂の巣のような形状で毛髪の中心部。その周りの毛皮質はケラチンというタンパク質の一種で、毛髪の約9割を占めます。髪の水分を保持し、しなやかさをつくる本体部分で、髪の色を決めるメラニン色素もここに含まれます。一番外側がキューティクル。髪の表面を魚のウロコのように覆い、外部のさまざまな刺激から毛髪を保護します。

 通常、ヘアダイは酸化染料などの化学反応により、毛髪の脱色と毛皮質内に染料を定着させることを同時に行ないます。酸化染料としておもにパラフェンジアミンやアミノフェノールなどのジアミン系の薬品が使われますが、これらには色素の原料が配合されているだけで、そのままでは色素として役に立ちません。それらを過酸化水素によって化学反応を起こさせることで発色させ、毛皮質内に定着させるのです。

 一方、ヘナは葉の部分にローソン(Lawsone-C10H6O3)という植物色素を含んでいます。このローソンは赤色色素を持ち、それが毛髪の主成分であるケラチンにからみつくという性質を持っています。つまり、ヘナの赤色色素が毛皮質内のケラチンにからみつくことで染まるというわけです。ヘナは基本的に着色染料で、酸化染料のような発色染料ではありません。そのため白髪染めには最適ですが、黒髪を染めても若干トーンアップしソフトな印象になる程度。黒髪をブリーチでいったん脱色してからヘナで染めるという方法もありますが、やはりある程度の明るい色までしか出せません。しかも、ブリーチは過酸化水素やアンモニアなどのアルカリ剤を使用するため、髪のパサつきなどの原因になります。
乾燥させたヘナの葉




トリートメント剤としても優秀なヘナ

 さて、次にヘナの長所と短所を見てみましょう。
 ヘナの優れている点は、なんといっても髪や身体に優しい天然素材であること。高品質なものであれば着色料や合成染料を含まないので、長く使用しても安心です。自分で染めることも簡単で、ヘナの粉を溶き、髪の毛に塗り付け、しばらくおいた後、洗い流せばOK。実際の使用感は、まるで頭にドロパックをしているような感触。あの化学成分特有のニオイやピリピリとした刺激はなく、ほのかに漂う植物の香りでむしろ心地よいくらいです。白髪染めとしての持続期間は通常1ヵ月程度です。
もうひとつはトリートメント効果にも優れていること。ケミカルなヘアダイはうっかり時間を置き過ぎると髪がパサパサになったり、コシがなくなったりしませんか?ヘナには毛皮質のケラチンに作用し、強化する働きがあると言われ、むしろ時間をかけることでトリートメント効果がグンとアップ。毛髪や頭皮の傷みがひどい場合は、毎日でも行なった方がよいくらいなのです。

 愛用者の多くから、ヘナを使い続けたら髪がツヤツヤになった、コシがでてきた、髪が丈夫になったなどという声が。クセ毛で髪の毛が広がりやすい髪質も、ヘナを使うことでだいぶ落ち着いてきます。また、長年のヘアダイの影響で髪の毛が薄くなってしまった場合にも効果的。ある70代の女性は髪の毛が薄くなったことを悩んでいたため、ものは試しと通常のヘアダイからヘナにチェンジ。そしてしばらく続けていたら少しづつ髪が健康になり、なんと髪の量が増えてきたそうですから、これには驚きですね。このように毛髪によいヘナは頭皮の健康にもグッド。ヘナには皮脂バランスを整える作用もあるので、脂性の頭皮にもおすすめです。ただし、効果の出方や期間は本当に人それぞれ。毛髪も頭皮も傷みがとくに激しい場合は、すぐに効果を実感できないかもしれません。けれども根気よくケアしていくことで、きっと少しずつどちらも健康を取り戻していけるはずです。

 ヘナは髪や頭皮にいいことづくめのようですが、実は短所もいくつかあります。ひとつめの短所は染め上がりの色が限られていること。白髪の部分をヘナで染めると、染め上がりは赤系かオレンジ系の明るい茶色に。ある程度回数を重ねることで色の深みはでてきますが、ヘナだけで黒やこげ茶には染まりません。またヘナそのものの品質やその人の髪質、傷み具合によって染まり方がさまざまで、どんな色に染まるかは染めてみないと分からないのです。

ヘナの赤みが気になる方におすすめ!
「ハーバルブレンドパウダー」

50g \1,200/(株)ラクシュミー
http://www.ecologyshop.co.jp/


インディゴ、オノスマ、ウォード、ティーの4種類の100%天然ハーブをブレンドしたブルー系の染料。ヘナで染めた後に、これで染めることで赤っぽさが解消でき、きれいな栗色を作り出します。

 ふたつめの短所はある程度時間をかける必要があること。ヘナは染めてから30分ほどで発色しますが、時間をかけた方が色味が深まり、トリートメント効果も期待できます。ですから、頭に塗ってから少なくとも1時間から1時間半はおきたいところ。これだけ時間をかけるのは月に1回染める程度ならいいのですが、ひんぱんに行なうトリートメントとなると、かなり面倒なのではないでしょうか。そしてもうひとつはタオルなどへの色落ち。これはまったくないとは言い切れません。染めた当日を含めて数日は、洗髪の後に使ったタオルに薄いピンク色が付くことがあるので、注意が必要です。



合成染料を混合したヘナも市販

 ヘナとひと口にいっても、すべてのものが天然100%というわけではなく、市場に出回っているものの中には、合成染料を加えたものもあります。また、ヘナ以外の100%天然ハーブをブレンドし、暗めの色に染まると謳っているブラックへナやダークブラウンヘナもありますが、全部が全部、期待通りに色が出るわけではないようです。本来はやはり天然100%のものがおすすめ。でも、うるしかぶれなどがあるように、天然100%であるがゆえに人によっては合わない場合もあります。ですから、購入する際には信頼できる自然食品店などで相談し、自分の体質や目的に合わせて選ぶこと、そして使用する前に必ずパッチテストを行ない、間違った使い方はしないなどを心がけることが大切です。




(いのぐちあきこ) 

writer's eyes
数ヵ月前からヘナにトライ。でも私の場合、明るいカラーに未練があり、ブリーチをしてヘナというパターン。正直、気になるパサつきはあまり改善されていないようです。今回、取材させていただいた塩田氏に「ヘナだけで2年がんばれば、よくなるよ」と言われ、えぇっ、2年…。でも長い人生の中での2年ですから、本気でやってみるしかなさそうです。

■ 取 材 協 力 / 塩田要氏(しおたかなめ)
株式会社ラクシュミー代表
東京南青山にて美容院Le Ciel(ル・シェール)経営
髪の毛そのものの素材を大切にし、最大限生かすために、15年ほど前からヘナの研究に取り組み、その普及に努めている
著書に『トリートメントヘアカラー ヘナ』(学陽書房)がある
ヘナ全般に関するお問い合わせ
Le Ciel(ル・シェール) : 03−3400−9094
インターネットによるお問い合わせ
http://www.ecologyshop.co.jp/
■ 参考資料・写真出典/ 『トリートメントヘアカラー ヘナ』学陽書房
社団法人日本毛髪科学協会ホームページ
http://www.f2.dion.ne.jp/~jhsa/


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