2001.10.19号



新米の季節です。ふっくら、炊き立てのおいしさは、何ものにも変えがたいほど。しかし最近は、従来の白米に加えて機能性、栄養価、使い勝手など、消費者のニーズに合わせた、多様なお米が開発されています。好みや効用を見極めて、自分のライフスタイルに合ったお米を選びたいものです。



お米の可能性を引き出す、スーパーライス計画

 新米の便りがあちらこちらから届く頃です。秋、初めて新米を炊く日のうきうきした気分は、今も昔も同じ。炊き立てを頬張る瞬間、日本人に生まれてよかったと感じることでしょう。しかし、人間の欲望はあくなきもの。おいしいお米を求めてのブランド戦争とはまた別に、昨今では、目的に応じた機能性を備えたお米の研究開発が進められています。
 その中でもいくつかはすでに商品化され、食卓に革命をおこし始めています。
 そうした新しいお米の流れの背景には、平成元年から農林水産省が中心になって進めてきた「スーパーライス計画」があります。それは、お米の可能性をさまざまな角度から引き出し、今までにない新しいお米を創り出そうというプロジェクト。味にこだわった品種の改良、特定の機能を持ったお米、生産効率の高いお米など、目的や求める方向性はさまざまですが、まさにこれからのスーパーライスを生み出すための計画です。
 その中でも農林水産省が特に力を入れてきたのが、 従来のうるち米品種やもち米にはない新たな成分・形質を備えたお米−−新形質米−−の開発です。 その中には、冷えても粘りがあっておいしい、低アミロース米品種の「ミルキークイーン」、ビタミン、ミネラルを豊富に含む、紫黒米の一種「朝紫」、米によるアレルギー原因物質の少ない、低アレルゲン米などがあります。

 ご飯を食べる量が減ったとはいえ、毎日食べるお米から摂取する栄養価の積み重ねは相当なもの。そのお米を選ぶことにより、 自分の食生活や栄養をデザインできるというのは、今までにはない新しい考え方です。白いお米さえあればなんにもいらないという時代からは隔世の感がありますが、自分に合ったお米を選び、ほんとうの意味で食生活を豊かにするライス革命は、これからのライフスタイルには欠かせないものとなるはずです。



冷えてもおいしい、ミルキークイーン

 スーパーライス計画の中でも、いち早く実現し、 最もホットな話題をふりまいているのが「ミルキークイーン」。 冷えてもかたくなりにくく、またぱさつかず、おいしさをいつまでも保てる夢のお米です。
 お米のでんぷんはアミロースとアミロペクチンという成分から成り立っていて、 その含有量に、風味は大きく左右されます。アミロースが少ないと粘りが多く、もちもちとした食感のお米になり、逆にアミロペクチンが高いと粘りの少ないパサついたお米になります。ちなみに、もち米はアミロースがゼロです。その性質を利用して、風味抜群のコシヒカリの胚乳に突然変異を誘発させるための処理を施して、アミロースの量を意図的にコントロールしたお米がこれです。結果、もち米に似たもちもち感と、コシヒカリ並の光沢や旨みを併せ持つことに成功。冷えても劣化が少なく、豊かな風味が持続するようになりました。また、炊飯ジャーに入れても黄色く変色しにくいという利点もあり、家庭内消費のほかに、おにぎりやお弁当など、加工品への使用に大きな期待が集まっています。
 炊き方は、アミロース含量が低いので、 通常の米より10〜15%少ない水加減でちょうどです。 現段階では、コシヒカリよりも高いお米としても有名ですが、普段使っているお米に半量だけブレンドすると、双方の長所が引き出され、ぐっとおいしくなります。ぜひ試してみてください。




ミネラル、ビタミン豊富な古代米、赤米・黒米

 若い世代にとってお米が白いのはあたりまえですが、実は、驚くなかれ、お米の先祖は、赤や紫黒の色をしていました。昨今、そんな古代の米を今の時代に蘇らせようという動きが盛んです。素朴な味わいの中にも、かむほどに豊かな滋味があり、その風味が白米に慣れた舌に却って新鮮に感じられると同時に、ミネラルやビタミンを豊富に含む、栄養価にも注目が集まっています。

[赤米] 赤米とは、 玄米の色が赤褐色で、果皮や種皮(つまりヌカ)の部分にタンニン系色素を含む米の総称です。弥生時代、日本に初めて伝わった米は赤米だったとか。野生稲の大部分が赤米であることから、米のルーツとも考えられています。また、炊き上がりのほんのりとした紅色から、赤飯の起源とも言われ、邪馬台国の昔から江戸時代まで、祝い事や神事には欠かせない米でした。しかし明治時代に入ると、文明開化の一貫から、赤米は雑草と考えられ、国をあげて除去運動が始まります。しかしそれでもなお、いくつかの神社では神事用に作り続けてきました。そうした原種に近い稲を繁殖させ、今の時代に蘇らせたのが、現在私たちが目にする赤米です。
五分づきにすると薄紅色になり、炊き上がりは淡い桜色。さっぱりとしてくせのない素朴な味は、初めてでもなつかしく感じるほど。栄養分は現代の白米と比べてたんぱく質や各種のビタミン、ミネラルが多く含まれています。また、野生のパワーにより、厳しい条件下でもたくましく育ち、化学肥料をあまり必要としないのも長所です。

[黒米]

黒米も、 同じく日本に伝わってきた米の原型の一つです。こちらは玄米の色が黒色でヌカにアントシアン系の色素を含んでいます。 五分づきにすると米が紫色になるため、紫米とか紫黒米とも言われ、 赤米同様、 縁起がよいと珍重されてきました。 中国では、滋養強 壮の効果から薬膳料理に用いられ、 不老長寿の米として歴代の皇帝に献上されたほどです。 実際、 たんぱく質、ビタミンB群、ナイアシン、ビタミンE、鉄、カルシウム、マグネシウム、 必須アミノ酸のリジン、トリプトファンが含まれるなど、極めて優れた栄養価は、科学の力でも証明されています。 また、 赤米が赤飯のルーツであるなら、 こちらはおはぎの元祖とも言われています。
[朝紫] スーパーライス計画の中で、その紫黒米をさらに改良、商品化へこぎつけたのが、「朝紫」(あさむらさき)という新品種です。バリ島の紫黒米に由来する日本稲型の改良品で 、玄米はやや細長く、小粒で果皮が濃い紫色。消費者の手に届く時点では、 色素が残る程度に七〜八分づきにしてあります。前述の黒米同様、 豊富なミネラルやビタミン、 また、 活性酸素の働きを抑え、老化を抑制する抗酸化物質−−ポリフェノール−−を含んでいることも明らかになり、 一段と注目が集まっています。
調理法は、研いで水に浸したもち米3合に、朝紫1/3合を加えて、 全体をさっと洗い、 おこわの要領で、 若干水を少なめにして炊きます。 薄紫色の炊き上がりはほのかに香ばしく、 こしのある歯応え、かむほどに広がる豊かな甘みも魅力です。 朝紫、 赤米、 黒米など、 色素を含むお米は、 いずれも長く水につけておくと色素が溶け出してしまう点に要注意。



21世紀の成人病を予防する、 発芽玄米

 精米された白米に比べて、ビタミンB群、鉄、亜鉛、食物繊維を多く含むことなどから、玄米が見直されて久しい昨今ですが、 依然、ぼそぼそと固く、調理に手がかかることから、 体にいいとわかっていても、なかなか玄米食は実行できないのが現状。ところが、玄米をわずかに発芽させた発芽玄米なら、外側の皮がやわらかくなり、白米と同様に炊く事ができるのです。おまけに玄米くささが消え、逆に独特の甘みと香ばしさが加わり、玄米が苦手だった人も受け入れられるでしょう。
 もちろんそれだけでなく、玄米中に含まれる栄養素を発芽という過程で活発化させ、栄養価を最高の状態にまで引き上げていることが発芽玄米の真価です。発芽による変化で特に目立つのが、ガンマアミノ酸(通称ギャバ)の増加です。ギャバは血圧を安定させる物質として知られますが、さらに脳の血流を改善し、酸素供給量を増やし、脳代謝を進める働きがあり、アルツハイマーの治療やボケ防止にも期待大。また多数の抗酸化物質の増加が見られ、脂質の代謝も促進されます。食物繊維に富んだ玄米の特質はそのままですから、脂質代謝と合わせて、ダイエットには最強のご飯になるでしょう。また、しみやしわの原因である活性酸素を除去する成分や、 メラニン色素の合成を抑え、 美白に効く成分も含まれています。 やせてきれいに…、女性には願ってもない、スーパーライスの登場と言えそうです。



高血圧の治療に期待が持てる、巨大胚芽米

 巨大胚芽米とは、普通のお米に比べて、 胚芽を約3倍の大きさに変異させたもの。高血圧をはじめ、糖尿病や動脈硬化の治療や予防のために、研究されているお米です。
 胚芽の中には血圧を安定させる、前述のギャバや、 ビタミンEなど多くの栄養素が含まれています。 これらがすべて3 倍になるわけですから、 ご飯一膳の効果も3倍というわけ。特にギャバに関しては、炊き始める最低1時間前に浸水することで、体内への吸収がよくなり、高血圧抑止食として、 医療の現場でも使われ始めています。現在までに「里のめぐみ」という品種が開発ずみで、これを100 %使ったおかゆも商品化されています。 さらに、この巨大胚芽米を発芽玄米にして、ギャバの働きを高めようという研究も始められました。



アトピー性皮膚炎の救世主、 低アレルゲン米

 日本人はたんぱく質総摂取量のうち約18%を米から摂取しており、 今でも、 お米は大切なたんぱく質の供給源となっています。 お米のたんぱく質は栄養的に優れているのですが、 この中に含まれるグロブリンが原因でアトピー性皮膚炎をおこす人もいるため、アレルゲンであるグロブリンを含まない米の開発も進められています。 方法としては、 たんぱく質の種類を変化させ、 消化されにくいたんぱく質を増やすことにより、これを実現しようというものです。 現代病とも言われるアトピー性皮膚炎ですが、現代の科学でまた、これに立ち向かうべく戦っているのです。



研がずに炊けて、 人に、環境に、やさしい無洗米

 これまでに説明した、 米そのものの形質を変化させるのとは違った意味で、 米飯文化に革命をもたらすべく、 俄然注目を集めているのが、研がずに炊けるお米、無洗米です。一般には、精米された米をすぐに水で洗い流して表面のヌカを取り去り、 乾燥したものを指します。
 現在、 無洗米作りに最も積極的に取り組んでいる「大潟村あきたこまち生産者協会」の自信作「やさしいあきたこまち」は次のように作られます。精米した米をすぐに最新の無洗米処理機にかけ、添加物や薬品を一切使わずに、 少量の水道水だけで、瞬時にお米の表面や溝に詰まったヌカだけを取り除きます。そして洗い終わったら温風で即座に乾かし、外気に当てずに袋詰め。家庭では、ていねいに研いだつもりでも、まだまだヌカが残っています。ところが、機械による洗浄なら、最も食味の向上するところまで完璧にヌカを取り除くことができます。すると、驚くべきことに、家庭で研いで炊くよりもおいしく炊けるのです。 これは食味テストでも実証ずみです。
 また、 同生産者協会では、 米の研ぎ汁を精米工場から一滴も排水することなく、 即時にパウダー化し、 米ぬかパウダーとして、 食品加工などに生かしています。また精米時に出る大量のヌカは、米ヌカ発酵肥料にし、有機栽培へ還元されます。どこまでも、環境にやさしい無洗米は、 これからのお米のあり方を多いに考えさせてくれます。



人種のるつぼ、 アメリカの米事情

 肥沃な土壌と、恵まれた気象条件を生かしたカリフォルニア米の質の高さは、日本でも広く知られるところですが、実際、アメリカでのお米の人気、定着度は予想以上です。それには寿司をはじめとする、日本食の普及の影響もありますが、それ以前にも、歴代の移民とともに各国のお米が持ち込まれ、食べられていたという背景があってのことです。お米=グレイン(穀物)ととらえるのがアメリカ式ですが、こだわりのスーパーマーケットでは、グレインの棚に20種以上の世界のお米が並びます。
 その内訳は、まず、 リゾット用のイタリア米が数種。 これは、 リトルイタリーという古くからのイタリア人街があることと、 イタリア料理の人気の高さによるもの。ほかには、 タイ米、 カリフォルニア産のロングライスなどはもちろん、 珍しいところでは、 ブータンからの赤米、 中国の紫黒米、 ヒマラヤからのバスマティライスなどがあります。ブータンではこの赤米が主食とか。
また紫黒米はFORBIDDEN RICE(禁じられた米)と名付けられています。薬効、栄養価の高さゆえ、皇帝が独占しようとしていたことが窺えます。さらりとしたバスマティライスは、カレーと合わせる国ならでは。地中海最古の米カルリソや、 ルイジアナにあるアメリカ初の精米所で、 昔ながらの方法で精米されているブラウンライス、香り米の一種のポップコーンライスなども個性派です。わが国のコシヒカリも、2パウンド(1kg弱) の小袋に入って、さん然と国際米の仲間入りをしています。
 そしてこれらのお米は、 現地での本来の食べ方に加えて、アメリカならではの独創的な調理法が加わって、実にさまざまな形で楽しまれています。それこそ、 お米の国ではないからこそ考えられるような、 日本人にとってはとっぴ、 でも彼らにとっては大まじめの新発見、 そんなお米クイジーヌが百花繚乱です。
 当たり前のように白いご飯を主食にして生活している日本人ですが、 こうして世界のお米を目の当たりにすると、 改めて、 お米は日本だけのものではないのだということに気付くと同時に、お米料理のさらなる広がり、 そしてお米そのものの無限の可能性を感じずにはいられません。


小松宏子) 

writer's eyes
SOHOの南、最も流行に敏感なエリアにある、その名も「rice」という名のレストランは、各国のお米が売り物です。無国籍のメインディッシュにライスを一つ選んで付け合わせるシステムですが、そのチョイスの幅が、なんともユニーク。シンプルなカリフォルニア米、ロングライスのほかに、タイ米にキドニービーンズをプラスしてココナッツミルクで炊きこんだ「レッドビーンズライス」、黒米に枝豆を加えて蒸し上げた「ブラックライス」etc 。デザイナーやクリエイターなど、おしゃれに敏感なニューヨーカーが、上手にお箸を使いながらそうしたご飯を食べている姿からも、彼らがお米をどうとらえているかがわかるではありませんか。お米はもはや、国境を超えたグローバルな存在。次はどんなお米の料理が生まれてくるのか、楽しみです。



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