2001.11.30号



新大陸発見の以前から、ネイティブ・ アメリカンの間で生薬として愛用されてきた、北米原産の果実、 クランベリー。
昨今、その効能が次々と明らかにされ、世界中から注目が集まっています。
きれいに、健康に、そして病気の予防に効く、ヘルシーパワーの源を探ります。



サンクス・ギヴィング・デイに欠かせない、 クランベリー

アメリカでは毎年、11 月の第4木曜日に、サンクス・ギヴィング・デイ=Thanks Giving Day(感謝祭) のお祝いをします。 その起源は古く、イギリスでの宗教迫害から逃れたピルグリムの一団が、新大陸に渡った1620年にまで遡ります。翌年、一年の無事を神に感謝し 、 ターキー( 七面鳥) を焼き、 作物を添えて祝ったのが、 記念すべき第一回目の感謝祭でした。以来今日まで、ターキーを焼いて祝う伝統は続いていますが、 その際に欠かせないのがクランベリーのソース。 なにしろ、 初回の感謝祭にもクランベリーが添えられたという記録が残っているのですから驚きです。
しかし、 これには必然といえる理由がありました。ピルグリムたちが大自然の厳しさに困惑しているときに、ネイティブ・アメリカン(インディアン)が救いの手をさしのべたのです。 とうもろこしを初め作物の栽培を教えると同時に、 貴重なビタミン源として、また、傷口の塗布剤や胃腸薬として愛用してきたクランベリーを、生活の知恵として授けました。ピルグリムたちは初めて目にしたクランベリーを命の恩人として、 お祝いに供えたのでしょう。以来、 開拓者の間でも広く民間薬として愛用されてきました。



クランベリーの故郷と収穫風景

日本でもここ数年、ずいぶんクランベリーを目にし、耳にする機会が増えましたが、それでもまだなじみの薄い果実ですから、ここで少し説明をしましょう。
クランベリーは、北米、しかもニューイングランドなど寒冷地が原産の、 ツツジ科ツルコケモモ属の植物です。その名は、花が鶴(Crane)に似ていることに由来します。
ベリーという名前から、ブルーベリーのようなブッシュ(灌木)になる実を想像するかもしれませんが、こちらは上へは伸びず、地面を這う蔓性の枝に実をつけます。開拓時代には、一家総出でひざまずいて、クランベリーをすき取る収穫風景が、秋の風物詩でした。
しかし今では、ボグと呼ばれる、地面より一段低くなった畑の中に栽培されます。 収穫時に水を流しこむと、 実が浮き上がり、それを、胸までの長靴をつけたファーマーが、耕運機のような器具で集めていきます。一面真っ赤に染まったボグが点在する、ニューイングランドの秋の風景はそれはそれはきれいです。
さくらんぼうのような可愛らしい姿から、 甘酸っぱい実を想像するかもしれませんが、 答えはNO。甘味がほとんどなく、酸味が強いために、果実といっても、そのまま生で食べるものではありません。 しかしその清冽な酸味が魅力で、ジュースを初め、ソースやジャム、マフィン、シリアル、チョコレート、乳製品など、あらゆる加工品に利用されています。特にアメリカのジュース市場では、オレンジ、アップルに次ぐ、第3位の消費量を誇っています。



健康ときれいを促す、クランベリーの栄養価

長い間、民間薬として愛用されてきたクランベリーですが、今日の科学の発達によって、クランベリーのさまざまな効能が明らかにされ、原産国であるアメリカはもとより、日本や広く世界から注目が集まっています。
まず、栄養面に目を向けると、食物繊維が100g中4.46g とずば抜けて多く含まれていることがわかります。ネイティブ・ アメリカンの間で整腸薬として親しまれてきたのも、 食物繊維の力によるとろが大きかったのでしょう。
また、ビタミンCの含有量は100g中18.2mg 。これはりんごの約6 倍、 ブルーベリーの約2倍に当たります。なにしろイギリスの船が壊血病を防ぐためにレモンやライムを積み込んだように、 アメリカでは船にたっぷりクランベリーを積み込みました。それほど、 ビタミンCの供給源としてもすぐれているのです。
また、 カルシウムは100g中10.0mg ほど含まれていますが、 これは果物としては注目に価する量です。 ヨーグルトなど、乳製品との組み合わせて食べれば、カルシウムの補給源としては、いっそう強力になります。豊富なビタミンCに加えて、便秘予防の食物繊維、イライラの解消カルシウムと揃って、美肌の味方であることはいうまでもありません。
また、カリウムはナトリウムを伴って体外に排出される性質を持つため、 塩分の摂り過ぎが気になる人には特に大切ですが、 クランベリー100g中には73.0mgのカリウムが含まれているので、有効に利用したいものです。



ファイトケミカルズパワーを最大限に利用の効果

これらのよく知られる栄養素のほかに、植物のみが有する微量栄養素が、実は人の体の健康維持の鍵を握っていることがわかってきました。 それら植物の体内で生産されるさまざまな物質を総称してファイトケミカルズ(植物性化合物)と言います。ポリフェノールやフラボノイドといえば、少なからず見当がつくでしょう。植物が持つ鮮やかな色、味、香りも、実はこのファイトケミカルズによるものなのです。そしてこれらの成分は、色や香りを生成するばかりでなく、それを食べた人間の体内で、抗酸化力を発揮したり、ホルモン様作用を示すこともあります。そしてあの真っ赤な姿から想像に難くないように、クランベリーはファイトケミカルズの宝庫ともいうべき果実。まずは、クランベリーに含まれる代表的なファイトケミカルズを紹介しましょう。
民間薬の効果を立証する、アントシアニンの抗酸化作用
クランベリー特有の鮮やかな赤色は、アントシアニンによるものです。アントシアニンは天然の抗酸化物質で、生のクランベリー100g当たり30〜50mg以上と、 ふんだんに含まれています。 抗酸化作用とは、体に入った酸素の一部が活性酸素になり、コレステロールが悪玉として働くための、酸化LDLに変化するのを防ぐ作用のことです。
抗酸化作用を持つ物質は、いずれもこの過程に関与し、酸化LDLの生成を阻止しようと働きます。なかでもアントシアニンは特に強力な抗酸化作用を有しており、各種の感染症予防に役立つことがわかりました。同時に血液をきれいな状態に保ち、傷の治癒を早め、視力を改善するなどの働きもあり、ネイティブ・アメリカンから開拓者へ受け継がれた民間薬としての効き目に納得がいきます。
美白にも効果大のプロアントシアニジン
別名凝縮タンニンと呼ばれる物質で、 ビタミンCの約20倍、ビタミンEの50倍とも言われる強い抗酸化力を持っています。クランベリー、赤ワイン、ブドウの種などに含まれる、ポリフェノールの一種ですが、ビタミンCと一緒に摂るとその効果が増すため、ビタミンCをたっぷり含むクランベリーは、プロアントシアニジンの供給源としては、最適といえます。
また、女性に特に嬉しいことに、プロアントシアニジンは、一般的な抗酸化栄養素の働きに加えて、 活性酸素を除去することで、皮膚の成分であるコラーゲンやエラスチンと結合して、皮膚のダメージ修復に役立つと言われています。美白はもちろん、シワ対策にも有効として、いま大注目の成分です。
抗ガン作用も期待できるフラボノイド
同じくポリフェノールの一種で、水溶性のビタミン様物質です。同様に非常に強い抗酸化力を有することで知られますが、活性酸素の除去、抗ガン作用、抗菌・抗ウイルス作用、抗アレルギー作用などのいくつもの有用な働きも確認されています。なかでも抗ガン作用は特に注目されており、乳ガンを含む、いくつかのガンへの効果はすでに実証ずみです。 また、 ビタミンCの吸収を助けたり、 コレステロールの劣化を防ぐビタミンEを保存する力もあります。同時にビタミンCがコラーゲンを生成するときに働き、毛細血管を強化するとも言われ、 後述の歯周病の予防にも役立っています。
また、抗菌作用を示す例の一つに、ネイティブ・ アメリカンが、 クランベリーの実を石臼ですりつぶし、香草などと混ぜて、 ペミカンと呼ばれるペーストを作り、 鹿の肉に塗り付けて腐敗を防いでいたという事実が挙げられます。 クランベリーの抗菌・抗酸化作用を生かした知恵だったのです。
上記3つの成分は、いずれもポリフェノールの一種です。ポリフェノールといえば、赤ワインの一大ブームを作った立役者ですが、化学の世界では「 分子内にフェノール性を複数有しているもの」 という難しい定義を持っています。その種類は大変に多く、一様に強い抗酸化作用を持ち、フリーラジカルの阻止、悪玉コレステロールの削減など、年齢につれて生じるさまざまな弊害に歯止めをかけてくれます。クランベリーに含まれる総ポリフェノール量は上記3種などを合わせて、同量の赤ワインの約3/5 量に当たります( 50%のクランベリージュースで比較)。これだけのポリフェノール量が摂取できるとは、アルコールは苦手という人にも嬉しいメリットです。



期待される医薬的、予防効果

そして昨今、クランベリーにさらなる注目が集まっているのは、特定の病気に対しての予防効果が、はっきりと医学的に確認されるようになったからです。 20世紀の西洋医学は、 病気の早期発見、 早期治療に重きをおき、 二次予防としての薬品の開発や治療に目覚ましい進歩を見せました。そして21世紀を迎え、逆に一次予防へ、つまり、 病気にならないような予防生活を重要視する考え方にシフトしてきています。そうした中で、 先人の知恵が育てた植物を利用した民間療法、 つまりファイトケミカルズの力がますます見直されてきています。それらは薬のように短期的、直接的ベネフィット(*利益、恩恵)は少なくとも、長期化し、生活習慣の中に取り入れていくことで、間違いなく大きなベネフィットになるのです。そこで、 クランベリーの最も顕著な二つの医薬的、予防効果を説明しましょう。
忙しい女性の大敵、膀胱炎の予防に
膀胱炎などの尿路感染は、 尿道から入った細菌が膀胱内で繁殖するためにおこる病気です。女性の尿路は細菌が入りやすい構造になっているため、仕事が忙しくて、ついトイレを我慢というキャリア組は要注意です。尿道から膀胱に入った細菌はまず内側の壁に付着し、 そこで繁殖を始めます。 ですから、膀胱炎を予防するには細菌を付着させないことが何より肝心。そのためには水分をたくさん摂って尿で細菌を洗い流すことと、尿のphを下げ、 酸性化して細菌を繁殖しにくくすることの2点が鍵です。 クランベリーにはこれまで説明した成分の他にキナ酸という独特の酸が含まれ、これが尿の酸度を高める役割を担います。また前述のプロアントシアニジンには、細菌の付着や、バイオフィルムと呼ばれる細菌のバリアの生成を阻止する力があります。クランベリージュースを飲めば、水分で尿量を増やすこともできるし、 細菌の付着も防げる、と一石二鳥。最も効果的な摂取方法は、尿がたまって細菌が付着しやすくなる就寝前に、コップ1杯のクランベリージュースを飲むことだそうです。
現代病の代表、歯周病をブロック
また、上記で記したような、細菌が付着するのを防ぐクランベリーの威力は、口の中にも見られるということが判明しています。現代病とも言われる歯周病は、歯の表面に何種類かの細菌が付着し、歯垢を形成することがその原因となりますが、クランベリーのプロアントシアニジンには、これらの細菌が凝縮して歯に付着し、バリアを形成するプロセスを防止する力があるのです。また、前述のフラボノイドは毛細血管を強くし、健康な歯茎を維持するのにも役立っています。
歯周病は単に歯や口の中だけの病気ではありません。きちんと食べ物を咀嚼し、おいしく食べられるということは、健康への第一歩。特に高齢化社会へ向けて、歯の健康管理はますます重要になってきます。丁寧な歯磨きはもちろん、定期的にクランベリーを摂って、上手に歯周病を予防したいものです。



クランベリーを使った簡単おいしいレシピ

ジュースをはじめ、乳製品やチョコレートなどの加工品もおいしものが揃っていますが、 自分で作る楽しさは格別。日本でも、少しずつ生のクランベリーが手に入るようになっていますし、 ほぼ同様に調理できる冷凍クランベリーも普及しつつありますから、 ぜひ試してみてください。 輸入食材に力を入れているスーパーマーケット( 紀ノ国屋やナショナル麻布など) では、常時冷凍品をおいているほか、秋からクリスマスまでの旬の時期には生のクランベリーを扱っています。また、甘みをつけて乾燥させたドライクランベリーは、そのまま食べるほかにも焼き菓子やジャムなど、 いろいろに使えます。 こちらはスーパー、 百貨店、 果物店などでも広く手に入ります。


スパイシークランベリーソース
サンクス・ギビング・デイのターキーに欠かせないソースを、 日本人向きにアレンジ。 ターキーだけでなく、チキンやポークのソテーにも。 また、 メキシコ料理風に、 タコチップスのサルサにしても美味。

材料:クランベリー(生または冷凍)200g、砂糖 50g、水 100cc、チャイブ(小口切り)1束、香菜(粗みじん切り)2〜3本分、タバスコ 適量、塩 適量
作り方:
鍋にクランベリー、 砂糖、 水を入れて中火にかけ、5分ほどして柔らかく煮とけてきたらチャイブ、 香菜、 タバスコを加え、 塩少々で調味し、そのまま冷ます。


ドライクランベリー&オレンジジャム
クランベリーだけでもおいしいのですが、 オレンジのほろ苦みが加わると、 大人っぽいテイストに。

材料:ドライクランベリー( みじん切り)1カップ、オレンジ 1/2個、砂糖 大さじ3+大さじ4、グランマニエ 大さじ1
作り方:
1 オレンジは皮を薄くむき、白いわたの部分を除いて細切りにし、2回ほどゆでこぼす。 小鍋に砂糖大さじ3とともに入れ、絞ったオレンジ果汁を加えて柔かくなるまでゆっくり煮る。
2 別の小鍋にドライクランベリーと水11/2 カップを入れて5分ほどおき、ふやかす。 そのまま砂糖大さじ4を加えて火にかけ、弱火で10分ほど煮る。最後にグランマニエをふり、そのまま冷まして密閉容器に入れ、 冷蔵庫で保存。


クランベリーのしば漬け風
クランベリーにしょうゆの味とは、 ネイティブアメリカンもびっくりの斬新な発想ですが 、 爽やかな酸味が上手に生かされて、 意外なほど美味。 ご飯の友にも、 酒の肴にも。

材料:クランベリー(生または冷凍)100g、しょうが 1/2 かけ、みょうが 2個
作り方:
クランベリーを粗みじんに刻み、 しょうが、 みょうがのみじん切りを加え混ぜ、 しょうゆ大さじ2〜3 を加えて、一晩ねかせる。


クランベリーローブレッド(21×11cmのローフ型1台分)
甘さ控えめですから、 おやつにはもちろん、 朝食や、 食事どきのテーブルブレッドにもぴったりです。

材料:ドライクランベリー 100g、ブランデー 大さじ2、薄力粉 250g、ベーキングパウダー 小さじ21/3、無塩バター 120g、グラニュー糖 150g、卵 2個、ヨーグルト100cc 、レモンの皮のせん切り1/2 個分
作り方:
ドライクランベリーにブランデーをふりかけて、密閉容器に入れ、2〜3日おいて味をなじませる。粉類は合わせてふるっておく。 型にバター(分量外)を薄く塗って粉をはたき、余分な粉をはらう。オーブンは180 ℃に温める。
1 ブランデー漬けのクランベリーを粗みじんに刻む。
2 ボウルにバターを入れてハンドミキサーでクリーム状にし、グラニュー糖を加えてさらによく混ぜる。
溶きほぐした卵を2〜3回に分けて2に加える。なめらかになったら半量のヨーグルト、半量の粉、残りのヨーグルト、粉の順にむらなく混ぜる。最後に、1のクランベリーとレモンの皮を加えてざっくり混ぜる。
型に入れて30分〜40分ほど焼く。 中心に竹串を刺して、 何もついてこなければできあがり。


クランベリーアップルパイ(直径18cmのパイ型1台分)
りんごとクランベリーはアメリカではとてもポピュラーな組み合わせ。 懐かしいママの味です。

材料:バター(1cm角に切り、 冷凍庫で凍らせる) 70g、薄力粉 100g、グラニュー糖 30g、塩 少々、冷水 40cc、紅玉 2個、ドライクランベリー 100g、バター 大さじ1 、グラニュー糖 大さじ1、シナモンパウダー 小さじ1/2
作り方:
1 フードプロセッサーに小麦粉を入れ、 バター、 塩、 砂糖を加えてスイッチを入れ、さらさらになるまで、 回す。 冷水を加えてさらに回し、 ぽろぽろになったら止める。  ボウルに移し、 ひとまとまりになるまで手で軽くこね、 ポリ袋に入れて最低1時間冷蔵庫で冷やす。
2 紅玉は皮を少し残してむき、芯を除いて薄いくし形に切る。フライパンに軽くバターを熱し、りんご、ドライクランベリーを加えて炒め、グラニュー糖、シナモンをふってからめる。
打粉をした台の上に1を取り出し、4mm厚さにのばし、パイ型に敷き込む。残りは1cm幅に切る。 パイ生地の中に2 を詰め、 細長いパイ生地を斜め格子に飾り、200 度Cに熱したオーブンで約30分ほど焼く。


小松宏子) 

writer's eyes
ボストンの郊外で、クランベリーの収穫風景を取材したのは、2年ほど前のこと。空から見た、真っ赤なボグの美しさが忘れられません。ちょうど町を上げて、クランベリー祭りの最中で、料理やお菓子など、さまざまな美味に出会うことができました。
それまで生のクランベリーを見たことのなかった私が何より驚いたのは、果実自体はとても堅いのに 、鍋にかけて火を入れると、あっという間に柔らかく煮えるということ。その堅さと、自身の抗酸化作用ゆえ、日もちがいいのも特徴です。おかげで、少しずつ日本にも生のクランベリーが入ってくるようになりました。ぜひ試してみてください。
そして、今年はニューヨークで迎える2度めのサンクス・ギビング。この日ばかりは、普段忙しいアメリカ人も、ターキーを焼いてクランベリーソースをたっぷり添え、少しばかり静粛な気持ちで祝うとか。同時にスーパーに積まれたクランベリーの山に、深く生活に根付いている様を知らされます。今年はアメリカ一の料理学校、Culinary Institute of Americaでローストターキーとクランベリーのソースを習う予定です。きっと新しい発見があるはずと、今から楽しみにしています。

■資料協力: 日本クランベリー研究会
TEL 03-5565-4919



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