2001.12.14号




生牡蠣に牡蠣フライに牡蠣なべ……冬の声を聞くと、たまらなくあの美味が恋しくなる人も多いことでしょう。
海のミルクと言われる独特の滋味深さと、栄養価の高さで、古今東西珍重されてきた牡蠣。その効能が科学の力でも裏づけされた今、栄養価の最も高い旬の時期に、たっぷり摂りたいものです。



海のミルク、 牡蠣

「 海のミルク」 にたとえられるほどの、濃厚な味わいと滋養の高さで広く知られる牡蠣。
牡蠣とはイタボガキ科の二枚貝の総称で、 一口に牡蠣といっても、 その種類は膨大、大きさや形もさまざまです。日本では誰もが、楕円に近いあの独特の形を思い浮かべますが、世界的には丸いものや平たいものなど、形を特定できないほど。牡蠣好きを自認する日本人は、日本こそ牡蠣の本場、広島や、 仙台の牡蠣が一番と思っているに違いありませんが、いえいえ、 世界中で愛されているのです。日本近海では、マガキ、ニセマガキ、シカメガキ、スミノエガキ、イワガキ、イタボガキ、ワニガキ、ケガキなど25種以上の生息が確認されています。そのうち私たちが店頭で見かけるものはほとんどがマガキで、養殖ものが主です。養殖の歴史は古く、広島湾ではすでに、300年前に根づいていたとか。他に国内では松島湾、厚岸湾などの養殖が有名です。
そして世界に目を向けると、 さらに百種以上の牡蠣が生息していると言われます。こちらも天然ものは少なく、アメリカ、 カナダ、 フランス、 オーストラリア、 チリ、 韓国、 中国などで広く養殖されています。 北米、 ヨーロッパなどでは主に生食用に養殖されているのに対し、 韓国、 中国などはオイスターソースをはじめとする、加工用の牡蠣が多く生産されています。これも食文化の違いの一端ですね。



有史以前から始まる牡蠣の歴史

人類と牡蠣の出会いは有史以前と言われています。 日本でも、各地の貝塚から、 アカガイ、 アサリ、 シジミなどにまじって、 たくさんの牡蠣が発見されており、縄文人が好んで牡蠣を食べてきたことがわかります。
また、 世界史を紐解けば、 牡蠣を好んだ英雄や文化人は数知れず。 英雄色を好むのことわざしかり、同時に牡蠣も好んだというわけです。例えばジュリアスシーザーがイギリス遠征を行ったのは、 テームズ河口の牡蠣を手に入れるのが最大の目的だったとか。 また、戦場で三度の食事には必ず牡蠣を食べ、 フランス沿岸の天然牡蠣を食べ尽くしたと言われるナポレオン。 その後牡蠣の養殖を推奨し、フランスの養殖牡蠣の起源になったという説もあります。 美味な牡蠣としてグルメをうならせる、 フランスのブロンも、 ナポレオンの偉業(?) によるのかもしれません。
この他にも、 鉄血宰相と呼ばれたドイツ帝国の初代首相ビスマルクが一度に175 個、 文豪バルザックは一度に144 個の牡蠣を平らげたという話は日本でも有名です。



Rのつかない月の牡蠣は食べるな

「Rのつかない月の牡蠣を食べるな」という西欧のことわざはご存知でしょう。Rのつかない月とは、May、Jun、July、August。これらの月4ヵ月はちょうど牡蠣の産卵期にあたり、身がやせて味が低下するばかりでなく、夏場に体力が落ちた牡蠣が感染しやすくなったり、腐敗したりする可能性がでてくるためです。逆に牡蠣の旬である12月から2月頃は、餌になるプランクトンが多く発生し、牡蠣自身の栄養も充実するため、よりおいしくなるのです。日本でも、 イワガキのように、例外的に夏場が旬の牡蠣もありますが、同じく「花見を過ぎたら牡蠣を食べるな」ということわざが残されています。洋の東西を問わず、先人の知恵は確かなことがわかります。



1年中が旬のニューヨークのオイスターバー

ところが、冬が旬という牡蠣の常識を破って1 年中、 旬の牡蠣を食べさせる店として、 人気を博しているオイスターバーがニューヨークにあります。
昨今ニューヨークでは、SUSHIブームも手伝って、カウンターの氷の上に生の魚介をずらりと並べたRAW BARスタイルが大流行。
3週間は予約がとれないといわれるほど人気のオイスターバー「 アクアグリル」 も例外ではなく、 カウンターの氷の上には生の牡蠣がずらりと25種以上も並びます。日本の近海に生息する牡蠣が25種なのですから、種類の豊富さだけでもびっくりです。しかも、北大西洋を中心に、 カナダや遠くはアラスカなどの産地からFEDEXで直送。水揚げ後、24 時間以内にカウンターの上に並ぶというのですから、そのこだわりには二度驚かされます。
そして夏場にはアラスカなど緯度の高いところや、チリ、アルゼンチン、オーストラリアなどの南半球からその時期が旬の牡蠣が毎日送られてきます。年間を通すと、その数50種以上とか。 こうなるとRの月もいざ知らず、牡蠣を求める人類の欲望は古来、絶えるこがないのかもしれませんね。



漢方では2000年前から薬効に注目

人類の歴史の中で、いかに牡蠣が珍重されてきたかという事実からだけでも、経験的にその効能を利用していたことがうかがえます。が、中国では、 すでに2000年前に編纂された薬物書「 神農本草経」 に、詳細にその効能を記しており、民間薬というよりは明確な形で、牡蠣の薬効を認識していたことがわかります。時代が下って400 年前の漢方の古典書「日用食鑑」 には、 膵臓や胃の働きをよくし、 寝汗を止め、 のどの渇きを取り、 二日酔いを防ぎ 、婦人病や精力の回復にも効果大、 肌を美しく、 きめを細やかにするなどなど。 しかも、 実際にそれらの効能を現在の科学で分析してみると、 寸分違わず合致することばかりなのですから、 古人の知恵には驚かされます。 もちろん現在でも、 牡蠣の成分を調合した漢方薬はたくさんあり、東洋医学の生薬には欠かせない素材の一つとなっています。
現代の栄養学的に分析すると、アミノ酸を18種類、 ビタミンを10数種類、 ミネラルを10数種類、 そのほかグリコーゲンや不飽和脂肪酸などを含んでいることがわかります。 古来人々を虜にしてやまなかった牡蠣の効能を各栄養素ごとに見ていきましょう。



スタミナ源と言われる所以「グリコーゲン」

まず、古くから知られるのが「グリコーゲン」の力です。グリコーゲンは多糖類の一種で、摂取した場合、貯蔵エネルギーとして筋肉、血液、肝臓の中に蓄えられます。そして体内でエネルギー分が不足したときに、糖質に変化して血液中の糖度調節に使われます。
一般に、貝類にはグリコーゲンが多く含まれていますが、なかでもカキの含有量はダントツで、糖質の50%以上をグリコーゲンが占めています。
また、貯蔵エネルギーという以外にも、細胞の分裂や増殖、赤血球の活性化にも深く関係し、肝臓の機能を高めて疲労回復や体力増進をはかり、ストレスへの抵抗力をつけてくれます。特に、牡蠣に含まれるグリコーゲンはスタミナ源として即効性に定評があります。
グリコーゲンといえば、 「一粒300メートル」 のコピーで有名な、 グリコキャラメルを思い出しますが、 そもそもは、 牡蠣の煮汁に含まれるグリコーゲンの力に着目し、キャラメルの中に「カキの煮汁」から抽出したグリコーゲンを加える方法を考案したのが始まり。時は大正の頃、 現グリコの前身である製薬会社がグリコキャラメルと名付け、ヒット商品となったのです。



基本的な身体機能を支えるタンパク質

良質なタンパク質が身体に重要なことは言うまでもありません。 なぜなら、タンパク質は、数種類のアミノ酸に分解され、そのアミノ酸がそれぞれ担当の部位に働きかけて、身体機能を支えているからです。アミノ酸の中でも、 体内で合成できない必須アミノ酸と呼ばれる8種類が特に重要なことはご存知の通り。牡蠣はその必須アミノ酸をバランスよく備えているばかりでなく、 準アミノ酸と呼ばれる2種(アルギンとヒスチジン)をはじめ、全部で18種ものアミノ酸を含んでいます。 その理想的なたんぱく質比率は、 「海のミルク」という名に恥じない、牛乳に匹敵する完全栄養食品であることを示しています。



カキの効能の秘密はタウリン

含有アミノ酸の中でも特に注目したいのが「 タウリン」。栄養ドリンクのコマーシャルでよく耳にする言葉ですが、 タウリンには、 疲労の元凶、乳酸が増えるのを防ぐ力があります。 つまり、タウリンを充分に摂ると、 疲れにくくなるばかりでなく、 同時に疲労の回復も早くなります。 栄養ドリンクの主成分の一つとしても使われるのはそのため。なにしろ牡蠣は、 そのタウリンを、全食物中でもトップクラスに多く含む食品なのです。
また、タウリンには、血中コレステロールの上昇を抑える作用も確認されています。これは、タウリンがコレステロールを分解する胆汁酸の分泌を促すためです。
さらに脳下垂体ホルモンの分泌を高める働きがあり、神経系のトラブル改善や、バランス回復などへも力を発揮します。特に視神経に対しては重要な働きを示し、眼の疲れや、視力の衰えを回復します。東洋医学で視神経への効能が強調されているのは、一つにはこのタウリンの働きによるものだったのです。パソコンやOA機器の使い過ぎなど、目を酷使している現代人は、おおいに牡蠣を食べる必要があるといえるでしょう。
またタウリンには、基礎代謝能力を高めたり、ストレスを抑える働きもあります。それは、ストレスを感じると分泌されるカテコールアミンという物質の分泌をタウリンが抑制し、ストレスによる身体全体の緊張をやわらげてくれるからです。基礎代謝力が高まれば、体脂肪の燃焼と老廃物の排出も促され、 ダイエットの強い味方になるはず。 しかも節食からくるストレスもやわらげてくれるというのですから安心です。 忘年会、パーティ続きで、体脂肪を貯め込みそうになっている人、今夜はさっぱり牡蠣なべにしてはいかがですか。



ホルモンの分泌を調整する亜鉛の働きに着目

牡蠣のこれだけの効能を支える、さらなる大切な要素は亜鉛です。含有量は100g中40mgで、これほど多く含む食品は他に見当たりません。 亜鉛は、 各種ホルモンの分泌や調整に欠かせない、大変に重要なミネラルです。また、亜鉛が活性化させる酵素は200 種以上もあると言われ、正常な細胞分裂を行うには不可欠です。
具体的には、細胞や組織の新陳代謝を促進し、皮膚や髪、爪に潤いを与え、ツヤを増し、健康に保ちます。気になる脱毛にも効果あり。同時に、細胞の老化を進めたり、がん化の原因の一つである活性酸素を抑制する酵素の働きを強めてくれます。合わせて、きれいをキープするには欠かせないミネラルであることがおわかりいただけましたか。
また、免疫機能を正常に保ち、ウイルスの進入を防ぐ働きもあります。 風邪をひきやすくなる冬が、牡蠣の旬であるというのも、よくできた自然の摂理ですね。 また、 不足すると味覚障害を引き起こすのはよく知られるところです。



各種ビタミンが合わさってさまざまな効果を果たします

さらにビタミンに着目してみると、 ビタミンA、 ビタミンE、ビタミンB6、12などが含有量の多さでは目立ちます。ビタミンAは目や肝臓の働きに特に関わりが深く、また粘膜や皮膚の形成にも欠かせないのはよく知られるところ。ビタミンEには、過酸化脂質の生成を防ぐ働きがあり、それゆえ老化防止に力を発揮します。ビタミンB6は欠乏すると、貧血や皮膚炎、成長の遅れなどを引き起こします。ビタミンB12も貧血の予防に重要で、 肝臓機能を活性化します。

これまで、個々の栄養素の働きをみてきましたが、それぞれにいくつも重複する効能があることにお気づきでしょう。例えば、 タウリンも亜鉛もビタミンAも目の機能を正常に保つのに、重要な働きをするといった具合に。このように一つの器官や作用に、少しずつアプローチの方法を変えて、幾重にも働きかけることで、その効果がいっそう確かなものとなるのです。 つまり、牡蠣に含まれる膨大な栄養素がそれぞれに複雑に影響しあって、総合的な効果となるというわけ。 いずれにしても牡蠣には、類まれな薬効が秘められていることだけはおわかりいただけましたね。



ワンパターン脱出で、ますます牡蠣をおいしく料理

牡蠣はその80%を水分が占める、非常に水分の多い食材ですから、せっかくの栄養をフルに生かすには、 調理法に注意が必要です。加熱すると水分とともに栄養価が流出してしまうので、生で食べるか、または煮汁も一緒に食べるのが、 賢い調理法。その意味からも、牡蠣フライのように衣でくるんで油の幕を作って中身の流出を防いだり、牡蠣鍋のように、煮汁ごと食べる料理が理にかなっているといえます。
もちろん下処理はていねいにすることも大切です。下処理には諸説ありますが、海水程度の塩水をボウルにためてふり洗いするのがいちばん簡単でしょう。用途に応じて、ペーパータオルの上にとる、またはざるに上げるなどして、水けをきることも忘れずに。
またスーパーなどでは、パックに入った牡蠣が、 生食用と加熱用に分けて売られていますが、これは生食用の方が鮮度がいいということではなく、養殖の仕方よる違いなのです。だから、牡蠣フライのように加熱する料理に、鮮度がいいのでは、と思い込んで生食用を買っても意味がありません。 お間違いなく。
いくら、 それだけでおいしい牡蠣といっても、 家庭での料理というと、ワンパターンになりがちです。そこで、簡単で、ひと味違う、おいしい牡蠣の食べ方を紹介しましょう。


牡蠣のリゾット

材料(4人分)牡蠣 200g、米2 カップ、コンソメ 2カップ 、白ワイン 1/4 カップ、玉ねぎのみじん切り 1/4個分、にんにくのみじん切り 1/2片、オリーブ油 大さじ1 、塩、 こしょう 各適宜、パセリのみじん切り 大さじ2
作り方:
1 牡蠣は塩水でふり洗いする。
2 コンソメと白ワインを煮立てて牡蠣を入れ、さっと煮て取り出す。煮汁は別にとりおく。
3 別鍋にオリーブ油を熱して玉ねぎとにんにくを炒め、しんなりしたら米を洗わずに入れ、透き通るまで炒める。
4 (2)の牡蠣の煮汁を注いで強火にし、煮立ったら火を弱め、ときどき混ぜながら、米が柔らかくなるまで煮る。お米が炊き上がる直前に(2)の牡蠣を加え、塩、 こしょうで味を調え、パセリのみじん切りを加えてひと混ぜする。器によそい、好みでパルメザンチーズのすりおろしをふりかける。


牡蠣の豆鼓炒め

材料(4人分)牡蠣(むき身)300g、長ねぎ(みじん切り) 1/2本分、サラダ油 大さじ1、酒 大さじ1、豆鼓(粗みじん切り)大さじ3、A(醤油 大さじ1、ごま油 大さじ1)
作り方:
1 牡蠣は塩水でふり洗いしてからざるに上げる。
2 中華鍋に油を熱し、仕上げ用に大さじ1 ほど残してねぎを加え、 炒める。 香りが立ったら、牡蠣を加え、 酒をふってひと混ぜし、合わせ調味料Aを加えてむらなく炒める。
3 器に盛り、ねぎのみじん切りをふる。


牡蠣のクリームシチュウ
クランベリーにしょうゆの味とは、 ネイティブアメリカンもびっくりの斬新な発想ですが 、 爽やかな酸味が上手に生かされて、 意外なほど美味。 ご飯の友にも、 酒の肴にも。

材料:牡蠣(むき身)300g、玉ねぎのみじん切り 1/4 個分、マッシュルーム 5個、小麦粉 大さじ1と1/2 、パプリカ 小さじ1/2 、バター 大さじ2、コンソメスープ(ブイヨンキューブ1個を湯で溶いたもの)2カップ、生クリーム 1/2カップ、塩、こしょう 各少々、バゲット 1/6本
作り方:
1 平鍋にバターを熱し、玉ねぎのみじん切りを入れてしんなりするまで炒め、マッシュルームの薄切りも加えて、さらにしんなりするまで炒める。
2 小麦粉とパプリカをふり入れて炒め、粉気がなくなるまで木べらで混ぜながらしっかりと炒める。温めたコンソメスープを注ぎ、混ぜながら溶きのばしていく。
3 途中ある程度溶けたら泡立て器に持ち替え、だまができないようによくかき混ぜ、塩、こしょうで味を調える。
4 塩水でふり洗いしてからざるに上げた牡蠣を加え、さっと火を通し、最後に生クリームを加えて一煮立ちしたら火からおろす。バゲットを薄切りにしてオーブントースターで焼き、添える。




小松宏子) 

writer's eyes
世界同時テロからはや3カ月、その間にも炭そ菌問題、AAの墜落と、暗いニュースが続いてきたニューヨークですが、1年でいちばん華やかなクリスマス時期を迎え、街は例年の活気を取り戻しつつあります。風の冷たさが増すのに比例して街にはおいしいものが増えていくのも冬の楽しみですが、 牡蠣もそのひとつ。なにしろ、RAW BARを設けることが繁盛店の秘訣というくらいに、ニューヨーカーは生の牡蠣が好き。 中には本文中のレストランのように各国から旬の牡蠣を輸送しているオイスターバーもありますが、NY近海でとれるものは、やはり冬が旬。2段、3段重ねのトレイの上に、ダース単位で頼んだ牡蠣をオードブルに、シャンパンを開ける姿はイルミネーション華やかなNYの12月をいっそうあでやかに彩ってくれます。
もちろん加熱して食べる方法もありますが、NYに水揚げされる牡蠣は、 多種あっても一様に、生食のほうが持ち味が生きるようです。たまに自宅で牡蠣フライを作ると、 やっぱり日本の牡蠣のほうがおいしいな、としみじみと思うくらいですから。 でも、 郷にいっては郷に従えで、 文豪バルザック目指して生牡蠣をたっぷり食べ、 旬の牡蠣パワーを余すことなく取り入れたいものです。



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