2002.2.22号




すっきりと香り高い吟醸酒から、お米の滋味をじっくり味わう純米酒まで、こだわりの美酒として、またおしゃれなお酒としてすっかり見直されている日本酒。
世界に誇る、その繊細で複雑な造りに目を向けるとともに、隠された、 きれいと健康効果を探ります。

 淡麗辛口の吟醸酒のブームに始まり、米本来の旨みが味わえる純米づくりが見直されるまでのこの20年間、日本酒のクオリティそのものもぐっと底上げされました。同時に、こだわりのつくり手、こだわりの料理店、こだわりの飲み手の出現によって、今や好きな銘柄の一つも言えなければというくらい、日本酒はグルメの必須科目となりつつあります。 ひと昔前までは敬遠しがちだった女性も、料理に合わせて銘柄を選び、味を試し、あるときは冷やで、またあるときはお燗で、とシチュエイションに応じて楽しんでいるようです。
 そうしてより身近になった日本酒も、その複雑な醸造法や歴史に関しては、まだまだ知らない人が多いはずです。 また百薬の長として、古来重用されてきた日本酒の効能が、昨今の科学で次々と裏付けされています。きれいと健康の秘密を探るためにも、まずはその複雑で繊細な作り方をのぞいてみましょう。



お米から日本酒のできるまで

 一般に酒類のアルコールとは、酵母が糖分を分解することによって作られます。ぶどうのようにそれ自身に糖分が多く含まれているものは、酵母がその糖分を発酵させるだけでアルコールになるのですが、穀物はそのままでは分解できません。事前に麹菌などの分解酵素によって、まずでんぷんを糖化させ、 その後、酵母によってアルコール発酵させるという、 二段階の作業が必要になります。 このように日本酒は、糖化と発酵が並行して行われる「並行複発酵」と呼ばれる方法で醸造されます。以下、順を追っての説明です。

1.精米 玄米の外側にあるたんぱく質や脂肪など、不要部分を削り落とす。その後、糠を洗い落としてから浸水。
2 .蒸米 水切りした白米を蒸して、糖化しやすくする。
3.麹作り 蒸した米に麹菌をふりかけ、米のでんぷんを糖分に変え、麹を作る。
4.酒母作り でき上がった麹と水、新たな蒸し米、酵母を混ぜてねかせ、酒母を作る。
5.もろみ作り 酒母に再度、麹、水、新たな蒸し米を三回に分けて加え、徐々にアルコール発酵させる。
2〜3週間後、もろみの完成。
6.搾り もろみの発酵が完了したら、圧搾機にかけるなどして搾り、酒と酒粕に分ける。 いよいよ日本酒の誕生。
7.おりびき 絞った酒のにごりを沈殿させて取り除く。
8.濾過 タンクに活性炭素を入れて雑味や色を吸着させ、濾過器にかける。
9.火入れ 酵素の働きを止めるために、約65℃に加熱。
10.貯蔵 酒の性質に応じて、一カ月から10年以上もねかせる。

以上が一般的な酒づくりの過程ですが、7.以降の作業に関しては必須ではありません。
絞っただけの「無濾過生原酒」、また濾過したあと火入れせずに出荷する「生酒」など、味と個性を追求したお酒も、 昨今注目を集めています。



本醸造酒とは? 純米酒とは?

 ところで、おいしい日本酒というと必ずでてくる言葉、「純米酒」とか「吟醸酒]。具体的には何を指すのでしょう。
 現在、高く評価されている日本酒は原料と製法により、大きく2つに分かれます。ひとつが、米、米麹、水だけを原料とする「純米酒」。他方が、もろみの状態のときに、醸造用のアルコールを少量添加する「本醸造酒」です。アルコールの添加量や加水量の多い普通醸造酒に関しては、ここでは割愛します。
 そしてそれぞれが、原料となる米の精米度合いにより、50%以上が大吟醸酒、60%以下が吟醸酒、70%以下がその他と、グループ分けされます。つまり、純米酒は原料上の分類、吟醸酒は精米の違いによる分類を表す言葉なのです。
 精米とは、作り方の過程で述べたように、米の胚芽や表層部のたんぱく質や脂肪を除くこと。これらの成分は、清酒の製造に必要な成分ですが、多過ぎると清酒の香りや味が悪くなります。 60%精米といえば、玄米の40%を取り去るということ。ちなみに、家庭で食べるお米は、精米歩合92%程度。清酒の原料となる米は、精米歩合が最低75%です。削るほどに、研ぎ澄まされた味になりますが、歩留りも悪くなりますから、当然、お酒としては、手間もお金もかかります。しかし、味に関しては、淡麗か、重厚かなど、目指す方向性によって精米法も異なりますから、一概に精米度合いが高いほどおいしいということではありません。
 また、本醸造の過程で用いる醸造アルコールとは、でんぷんや含糖質物から醸造されたアルコールのことを指します。もろみにアルコールを少量(白米の重量の10%以下)添加することで、香りが立ち、スッキリした味になるばかりでなく、清酒の香味を劣化させる菌の増殖を防ぎます。この製法は、純米酒が見直されている今、人工的な印象を受けるかもしれませんが、決してそうではなく、江戸時代にはすでに開発されていた、伝統的な製法なのです。



日本酒の歴史 米の酒はどこから、そしていつから

 話が前後しますが、では、こうした日本特有の米の酒は、いつ頃から作られ始め、また飲まれていたのでしょうか。
 日本酒は、約2,400年前に中国から渡来した稲作の文化とともに生まれたと言われています。ただしその頃の日本酒は、原料の米を「口で噛んで」作る原始的なお酒でした。
「くちかみ」とは、縄文時代初期に、 山ぶどうや木の実を口の中で噛んでカメに保存し、でんぷん質を糖分に変えてから発酵させた、初期のワインと同じ製法のお酒です。米の伝播後、木の実よりもでんぷん質の多い米のほうが、 おいしい酒に変わることに気付いたことは想像に難くありません。 余談ですが、この時代は母長家族制であったため、 一家の長は主婦。 口噛み酒のための酒つぼを管理しているのも、もちろん主婦。 「 おかみさん」 の「 おかみ」とは、 この頃の「 噛む」が語源だとか。
 その後、弥生中期から後期にかけて、米麹を使った酒づくりが各地に定着したと言われています。というのも、当時の米が蒸し器で蒸した強飯で食されており、この強飯こそ麹カビの繁殖に最適の場。よってこの時期に麹も成立したとする説が一般的です。平安時代の「 延喜式」(900 年代) には酒を造る役所の記述があり、 今日の日本酒のように澄んだ清酒が造られていたことがわかります。 さらに室町時代から江戸時代にかけて、「並行複発酵」、「火入れ」の確立など、日本酒独特の製造法が確立し、今日の形の日本酒ができあがりました。
 春の「花見酒」、田植えのあとの「夏越しの酒」、中秋の名月の「月見酒」、冬の「雪見酒」…。古くは平安時代からこうした四季折々の景色の中で楽しまれ、 また、飲む薬としても重んじられてきた日本酒。 最近になって科学的根拠が明らかになったそれらの効能の中から、特に女性に関係の深いものを見てみましょう。



毛細血管を活性化し、血行をよくする

 お酒を飲むと血行がよくなり、身体が温かくなる、これは一般的な現象ですが、寒い冬、鍋をつつきながら日本酒をいただくと、やけに温まるなと感じだことはありませんか。実は、その印象は正解。日本酒には、血管を拡張させる物質が含まれていて、そのおかげで、他の酒より身体を温め、かつ持続することができるのです。
 お酒を飲んで顔が赤くなったり、飲みすぎて青くなったりという現象は、毛細血管の拡張と収縮によります。つまり、血管が拡張すると赤く、収縮すると青くなるわけですが、この血管の拡張と収縮に関与しているのが、実は二日酔いの元凶として知られるアセトアルデヒドなのです。
 アセトアルデヒドとは血液中のアルコールが肝臓のアルコール脱水酵素によって分解された中間代謝物です。これはさらにアセトアルデヒド脱水酵素により分解され、炭酸ガスと水になって体外に排出されます。確かにアセトアルデヒドは吐き気、呼吸促拍などを促す有害物質で、長く血液中に残ると二日酔になってしまいます。しかし同時に、初期段階では、 血管の拡張機能もつかさどる、重要な物質なのです。ゆっくり飲むことで、血液中にアセトアルデヒドができ、これが血管を広げて血流をよくし、顔が赤くなります。逆にアセトアルデヒドができる前に血中のアルコール濃度が高くなりすぎると、血管が収縮して逆に顔が青くなるといった具合に。
 と、ここまでは、アルコール飲料全般の話ですが、日本酒の中にはさらにアデノシンという核酸の一種である物質が含まれていて、これが、アセトアルデヒドとの相乗効果により、血管の働きをより活発にします。同時にこのアデノシンには、強いストレスを受けた時などに、血管が収縮する命令を出すホルモンの分泌を阻止する力もあります。
日本酒は、 血の巡りをよくするばかりでなく、ストレスからの気分転換をはかるにも、最適のお酒といっても過言ではなさそうです。
 こうした毛細血管を活性化する作用は、熱いお風呂に入ったり、マッサージしてもらうのと同じような効果が全身にもたらされます。 ですから、 女性特有の冷え性、OA機器の目の酷使からくる肩凝りや偏頭痛などにも効きめがあるのです。



麹菌が作り出す麹酸による、美肌効果

 また、米どころ、酒どころには色白美人が多いとか、 力士の肌はつやがあるなどとよく言われますが、 これも実は根拠あり。 日本酒の中の麹酸の働きによるものだとわかってきました。
 麹酸とは、麹菌が米のでんぷんを糖分に変える過程で生み出される抗酸化物質の一種で、 しみやほくろの原因になるメラニン色素の生成をしっかりと抑え込む働きがあるのだそうです。 それゆえ、 麹酸は昨今のホワイトニング化粧品の成分としてもひっぱりだこです。
 また、 麹酸は抗酸化物質でもあるので、老化の元凶・活性酸素の発生を抑え、細胞の活性化をもはかります。特に著しいのが、毛穴と皮膚の角質における働きです。
毛髪に関しては、 麹酸による組織の培養で育毛効果が見られたことから、 盛んに養毛・育毛剤の原料としても使われています。また、古い角質が取り除かれれば、表皮の新陳代謝が高まり、すべすべお肌へ一歩近づけるのです。
 さらに日本酒は、米の細胞壁の構成成分であるフェルラ酸も多く含んでいます。なんとフェルラ酸は、紫外線の皮膚への吸収をカットしてくれる力を備えているのです。紫外線といえば、しわやしみの大敵。フェルラ酸は日焼けによるダメージを最小限に抑え、皮膚の老化にブレーキをかけてくれるわけです。 また、豊富に含まれるアミノ酸には保湿の効果も期待できます。体温が高くなることで、皮膚の表面の血液循環もよくなりますから、必要な栄養分がすみずみまで運ばれることはいうまでもありません。色白、しっとり、すべすべ、つややかと、日本酒美人の秘密は麹酸とその他の成分の相乗効果にあったようです。



飲むだけでなくお風呂と化粧水で、外から補給の美肌効果

 こうした日本酒の効能を認めて古くから実行されてきたのが酒風呂です。おふろの湯をぬるめの37℃くらいに設定し、入浴直前に200リットルの湯に対して、日本酒4合(720 ミリリットル) を入れ、 ゆっくりと20分ほど入ります。
 血行がよくなって身体が芯から温まり、 湯冷めすることがありません。また、保湿効果もありますから、湯上がりのお肌はいつまでもしっとり。アトピー性皮膚炎に効くという説もあるくらいです。
 もうひとつ 、日本酒と梅干しから天然化粧水作っている人もいます。作り方は、無添加の梅干しを、ぬるま湯に30分くらいつけて塩抜きした後、竹串などで傷をつけて日本酒に入れ、6時間から一晩、 梅干しのエキスを浸透させます。 ガーゼなどでこせばできあがり。
 朝晩の洗顔後にひたひたとパッティングすれば、 しっとり保湿効果抜群。 また、 お風呂上がりに肩や腰、びざから下にすり込んておくと手足が冷えにくいというメリットも。冷蔵庫に保存して早めに使い切ることも忘れずに。
 このように、 さまざまな効果が期待できる日本酒ですが、 これもひとえに、 原料である米を麹菌で分解し、酵母で醗酵させて作るという複雑な醸造法によるものです。醸造過程で生まれるペプチド、複合たんぱく質、 アミノ酸、 麹酸といったさまざまな物質がそれぞれに、 細胞を活性化し、 身体に好影響をもたらしてくれるのです。ちなみにペプチドとはアミノ酸が2個から10個程度つながった非常に小さいたんぱく質のこと。 複合たんぱく質とは、 脂質など、アミノ酸以外の物質と結合した、たんぱく質です。
他にも味や香りを構成する微量成分の中に、 血圧を安定させる物質、 制ガン作用の認められる物質、 さらにはや糖尿病への効果や、 老人性痴呆症治療に期待できる成分などが続々発見、 研究されています。 百薬の長の名に恥じず、 まだまだ未知の効能が隠れているかもしれません。



上手な飲み方

 しかし、 これらお酒のメリットは、 節度ある飲酒のうえに成り立つということは、いわずもがな。 飲み過ぎてはなにもかもが台無しということも、 皆さんよくご存知のはずです。それでも、 飲み始めるとつい酒量が上がってしまうという方に、楽しみながら、上手に飲むいくつかのコツを教えましょう。

[ お燗で飲むおいしさ、 楽しみ、 メリット]
 日本酒は、冷やしてよし、燗でよし、 という珍しいお酒ですが、 それもたくさんの味覚成分で構成されているからにほかなりません。 温めると旨み成分のコハク酸がきわだち、 逆に冷やすとリンゴ酸やクエン酸、乳酸などが目立つという、繊細な変化をおこし、 それぞれに、 まろやかな口あたり、 すっきり爽やかなキレ味が醸されます。
 昔の燗酒といったら、 アルコールの香りがきつくて、 おじさんの飲み物の代名詞のようでしたが、純米酒の質の向上などで、 お燗によって旨みが引き出される銘柄も増え、若い女性の間でもファンが増加中です。
 小さなお猪口で少しずつ飲むこの熱燗こそ、 お酒をじっくり味わうことができる、理にかなった日本人の知恵です。ゆっくり楽しめば気分も落ち着き、ストレスも解消され、日本酒の効能もますます良い方向に表れてくるはず。
といっても、血管の拡張作用に関しては、冷やで飲む場合も変わらぬ効果がありますので、あくまでも冷や党という方もご安心を。

[ そして栄養バランスのとれた料理とともに]
 お酒のおつまみには良質のたんぱく質を、とよく言われますが、それは、胃粘膜の保護のためばかりではありません。アルコールを分解する酵素はたんぱく質からできており、肝臓が受けたダメージを修復し機能を改善するのもたんぱく質の役割。ですから、たんぱく質が不足しては酵素の働きが弱くなるばかりでなく、肝臓への負担も大きくなってしまいます。
 また、アルコールを分解するときには、糖分が消費されるので、糖分を多く含む果物(果糖)やチョコレートなどのおつまみも悪酔い防止に役立ちます。お酒を飲んだあとに、 妙に甘いものが食べたくなるという現象は自然の摂理だったのですね。といっても、ダイエットの点からはご用心。また、 亜鉛はアルコール分解酵素にはなくてはならない成分ですから、生牡蠣や魚介類、かぼちゃなどもおすすめです。
  一方、次の段階として、 アセトアルデヒドの分解を促すのは、ビタミンB 群、C 、E の力です。また、 ごまに含まれるセサミンという抗酸化物質には、アルコールやアセトアルデヒドの分解を早め、 二日酔いを防止する効果があることがわかってきました。とすると、ほうれん草のごま和えはまさに理想的な二日酔い予防食! また、ビタミンB群はアルコールを飲むと吸収されにくくなります。 自他ともに認める!“飲み助”は、 普段からビタミンB群の摂取を心がけてください。 いずれにしても、肝臓に負担をかけず、 悪酔いや二日酔いを避けるためには、栄養バランスのとれたおいしいお料理とともに、 ゆっくりお酒を楽しむことが何より大切なのです。



小松宏子) 

writer's eyes
 凍てつくような空気の中で日本酒もいちだんとおいしく、と言いたいところですが、今年のNYは異常な暖かさで、 日本酒による血行促進効果も不要なほどです。しかしながら、NYの街を見渡せば、日本酒が深く浸透しているのに改めて驚かされます。これもSUSHIブームの副産物かもしれません。こだわりの日本料理店やリカーショップは、どこもかなりの品ぞろえ。 知ってか、知らずか、純米酒をおくところも多いようです。我が家の近くのワインショップも、 オーナーが大の日本酒ファンとかで、 綾菊や、男山をはじめ、7〜8 種の日本酒をおいています。先日行ったクリエイティブなお寿司で有名なバーでは、カウンターにずらりと10種ほどの日本酒が並んでいました。 また、3週間は予約がとれないというほど人気の、オイスターバーのオーナーシェフに、「牡蠣にいちばん合うお酒は?」と聞いたところ、「日本酒と合わせるのが一番さ」との答。 ヘルシーなものならなんでも大好きな彼らに、日本酒のこれだけの効能を教えてあげれば、さらに普及するに違いありません。といっても、 彼らにとっての日本酒はワイン感覚で飲む冷酒。世界に誇れる燗酒はまだまだ未体験ゾーンのようです。 今度、 一緒に日本酒を飲む機会があったら、 ぜひ、 燗酒のおいしさを教えてあげたいな・・と思っています。



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