2003.6.11号




 古来から、西欧の人々の生活を支えてきたチーズ。
その長い歴史の中で育まれてきた豊かな食文化を知るとともに、すぐれた栄養価を生かした上手な食べ方を学びましょう。



チーズにも旬がある

 日本の食材に旬があるように、チーズにも旬があるのをご存知ですか?牛乳をはじめとする、山羊、羊など、動物性の乳から作らるチーズ。しかし動物とて、乳を出すのは産後一定の期間だけ。子を産む時期が決まっている動物は、乳を搾れる時期も一定、チーズが仕込めるのもその時期だけ、ということになります。例えば山羊が仔山羊を産むのは1月〜3月。搾った山羊の乳を仕込んで、熟成させて出荷する初夏は、まさにシェーヴルチーズの旬。また、アルプスで放牧された牛が、新しく萌えた夏の草を食んで出したおいしい乳をゆっくり熟成させ、豊かな山のチーズとなるのが晩秋。そして山岳地方の厳しい冬の栄養源であったハードチーズはまた、暖炉を囲んでの楽しい冬の思い出……。
 このように、ヨーロッパではチーズは、ごく自然に季節の移り変わりの中で楽しまれています。しかし、日本人にとってのチーズは、まだまだ高級スーパーの店頭に並ぶ輸入製品。その中に旬を見出すのは難しいものです。しかし、これだけナチュラルチーズが浸透し、さらに日本でもおいしいチーズが作られるようになってきた今、そんな“旬”のことを知って食べると、食卓のおいしさ、楽しさがいっそう増すことでしょう。


長い長いチーズの歴史

 チーズは人類が作った最古の食品といわれていますが、そのルーツは・・・。人類が家畜の乳を利用し始めた5千年〜6千年前のこと。 遊牧民が、羊の皮袋にミルクを入れて旅したところ翌日チーズになっていた、という言い伝えが残っています。このように、中近東で始まった、羊の胃袋にあるレンネット(凝乳酵素)の働きで乳を固めるチーズ作りは、中近東、トルコ、ギリシアを経て、ヨーロッパに伝わりました。ギリシャ神話には、すでに、ギリシャの代表的なチーズ、フェタも登場しているほどです。また、現在のチーズの原型であり、かつ最高峰でもあるパルミジャーノは、ローマ帝国時代には完成したとか。そしてローマ軍の侵攻とともに、各地にチーズ作りが伝播。酪農に適した豊かな風土フランスではチーズ文化が花開きました。


さまざまなチーズの種類

 こうして、長い歴史の中で、人類の叡智を尽くして創り出されたチーズの数々。その種類は何千にも及びますが、製法により、大きく6つのグループに分かれます。以下がその分類と、代表的なチーズです。

フレッシュチーズ

白かびチーズ ブルーチーズ
ウォッシュタイプ シェーヴル ハードチーズ



すぐれたチーズの栄養価

 このように長い歴史の中でチーズが愛され続けてきたわけは、美味しさはもちろんのこと、なによりもチーズの栄養価の高さにあります。 「白い肉」といわれるほどの豊富なたんぱく質。豊かなカルシウムやビタミン。そもそもチーズは、赤ちゃんがそのまま育つ“乳”が原料なのですから、滋養たっぷりなのはあたりまえのことですが、“乳”そのものよりも優れている点は、からだへの吸収率のよさにあります。チーズをうまく食生活に取り入れることは健康保持だけでなく、美容やダイエットにも効果大なのです。

 
良質なたんぱく質の宝庫

 
チーズに含まれるたんぱく質は、必須アミノ酸をバランス良く含む良質なタンパク質です。これらは熟成とともにアミノ酸に分解されていくので、消化がよく、効率的に吸収されます。また、このアミノ酸は肝臓の機能改善や肝臓疾患治療にも効果があるといわれています。 アルコールの分解を円滑にする働きもあるので、お酒のつまみにチーズを食べることは、とても理にかなっています。
 また、驚くべきことにチーズには制ガン作用があるとの研究発表もされています。これはチーズの中のたんぱく質が体内の鉄分と結合し、リンパ球が活性化してガン細胞の増殖を阻止する働きによるものです。 その他、チーズのたんぱく質には、過剰な塩分を体外に出す働きもあり、高血圧、脳卒中の防止にもつながるとか。チーズの中には、塩分高めのものもありますが、自然の摂理はうまくできたものです。このようにチーズは、丈夫な身体を作るのに大切であるばかりでなく、健康を維持するためにも欠かせません。
 

 
カルシウムの補給源としてベスト

 栄養過多といわれる現代にあって、日本人が唯一不足している栄養素がカルシウム。成人ひとりが1日に必要な所要量は600mgに対して、日本人の平均摂取量は568mg。 世界のレベルに比してカルシウム不足なのは、乳製品の摂取量が足りないからにほかなりません。これを補うにはチーズが最適。 牛乳1本分のカルシウムは約200mgですが、チーズならば20g〜30gでOK。ほんのひと切れのチーズで、1日の目標所要量が達成できるのです。
 また、チーズに含まれるカルシウムは、良質なたんぱく質と分子結合した形で存在していますから、体内摂取率も抜群。率にして、小魚や海藻類の約2倍とか。 「小腹がすいたときにひと切れのチーズ」を習慣づけると、カルシウムの摂取量は格段に増えるでしょう。
 骨を作る栄養素であるカルシウムは成長期に必要なのはもちろん、女性は閉経後に、骨からカルシウムが流出しやすいので、若い頃からのカルシウムの蓄えが何より大切です。 また、イライラを抑え、精神安定もつかさどるカルシウム。チーズを食べることは、ストレスから身を守る術でもあるのです。
 

 
ビタミンB2で上手にダイエット

 ビタミンB2は、チーズに豊富に含まれる栄養素のひとつです。 疲労回復などに効果があるほか、チーズの中のビタミンB2は、たんぱく質と結びつき、脂肪分を分解、燃焼させる働きが高くなるという、嬉しいおまけつきです。
 また、チーズの乳脂肪は、ひと口に脂肪といっても、ビタミンB2の働きで、すぐにエネルギー源に変わるばかりか、熟成の過程で、ほかの動物性脂肪より消化されやすい形に変わっています。 チーズ料理が少量でも腹持ちが良く、間食などが控えられ、ダイエットに効果があるというのは、この適度な脂肪分のおかげでもあるのです。安心していただきましょう。
 

 
ビタミンAで美しく!

 ビタミンAといえば、緑黄色野菜に多く含まれる栄養素ですが、チーズの脂肪分の中にも、このビタミンAがたっぷりと含まれています。それは、原料の乳を作り出す乳牛や山羊が、緑黄色野菜である牧草を食べているからです。ビタミンAは粘膜を丈夫にする働きがあり、目の健康や肌の美しさを保つには不可欠。ただ残念ながら、チーズにはビタミンCは含まれていません。新鮮な野菜やフルーツと一緒にチーズを食べるようにすれば、完全にバランスがとれるというわけです。
 


種類ごとの栄養価の違いと、王者パルミジャーノ

 こんなにも優秀な食品であるチーズですが、フレッシュからハードまで、形も味も千差万別。 栄養価もまったく同じであるはずがありません。
そこで、いくつかの角度から比較をしてみましょう。

<100gあたりのカロリーの比較> 
1.パルミジャーノ 475 Kcal
2.エメンタール 429 Kcal
3.クリームチーズ 346 Kcal
4.カマンベール 310 Kcal
5.シェーヴル 295 Kcal
 
  一般に熟成が浅いものほど、カロリーが低いといえる。 ただし、これらの数字は、チーズそのものの脂質量とは 関係ありません。
<80Kcalあたりのカルシウムの含有量の比較>
1.エメンタール 228 mg
2.パルミジャーノ 221 mg
3.クリームチーズ 141 mg
3.チェダー 120 mg
5.クリームチーズ 16 mg

この表から、クリームチーズを使ったチーズケーキを食べても、カルシウム、たんぱく質摂取の点ではそれほど、安心できないことがわかります。 総合的にみると、王者はやはりパルミジャーノのようです。
ぜひ、ブロックで買って、切り崩してワインのおともに、 スライスしてサラダやカルパッチョに、 すりおろしておなじみのパスタやグラタンにと、マメに使いたいものです。
<80Kcalあたりのたんぱく質の含有量 の比較>
1.パルミジャーノ 7.5 g
2.エダム 6.4 g
3.カマンベール 5.0 g
4.クリームチーズ 5.0 g


今が旬!栄養豊富な山羊の乳、そしてシェーヴル

  昨今、山羊乳の栄養価の高さが見直されています。日本でも山羊乳のチーズ作りや、販売をしているところも少しずつ増えています。山羊乳のメリットとしては、成分が人間の母乳に近く栄養豊富であること。牛乳に比べて脂肪球が小さく吸収が早いこと。また、アミノ酸代謝物であるタウリンがなんと牛乳の約20倍も含まれているということなどが挙げられます。つまり滋養強壮に優れるとともに、コレステロールを調節するはたらきなども期待できます。こうした性質を持つ山羊乳を原料にしたチーズですから、当然栄養価も高くなるわけです。
 また、シェーヴルチーズはあまり熟成させないので、カロリーも低め、かつ、脂肪球が小さいので、熟成期間が短くても、良質なたんぱく質やカルシウムに富んでいます。上手に食べればとても効率よく栄養補給&ダイエットの味方になってくれるはず。ただ、独特の香りや、ほっくりとした舌触りなどがどうも苦手、食べず嫌いという人もいることでしょう。そんな方のために、食べ方のちょっとしたコツを教えます。
 それは「加熱」です。火を通すと、とろりと柔らかくなってぐっとコクを増し、また違った魅力があらわれます。クロタンという、直径5cmほどの小さなシェーヴルチーズをオーブンで焼いてサラダにのせる料理は、パリの星つきレストラン発のとても有名な前菜。ほかにも、モッツァレッラチーズのように薄くスライスしてピッツァにのせて焼くのもよし、またちょっと変わったところでは、ワンタンの皮や、フィロ−という、ギリシアのごく薄いパイ生地に包んで揚げるのもよし。中からシェーヴルチーズが溶け出して、いくらでも食べられそうです。今が旬の、シェーヴルチーズ。苦手だった人もぜひ、この時期にトライしてみてください。


小松宏子) 

writer's eyes
 チーズが栄養豊かな食品であることは、いわずもがな。私自身も大好きでよく食べていますが、種類ごとに栄養価に差があるのだということは、今回調べてみて、よくわかりました。パルミジャーノの魅力にはいまさらながらに脱帽。実は私、たまたまいただいた、4年熟成のパルミジャーノ(なんでもチーズのロールスロイスにたとえられるのだそう)という、貴重な品に舌鼓を打っているところです。
 そしてシェーヴルの栄養の高さには驚きました。どうりで、ニューヨークのレストランでは、GOAT CHEESE(英語の表記ではストレートにこれを用います)のオンパレード。 モダンでインテリジェントなレストランに入ると、必ずメニューの中にひとつ、二つ、GOAT CHEESEの文字を見かけます。 ヘルシーオリエンテッドな彼らには、ちょっとしたおしゃれ感と、実際のシェーヴルのニュートリションがマッチして、すっかり定着しているのでしょう。
 「おいしくって、おしゃれで、身体にいい」ものなら、ニューヨークスタイルのチーズの流行、ぜひとも取り入れたものです。日本でも山羊を飼い、シェーヴルチーズを作る牧場や農家が少しずつ増えています。もちろん、フランスの旬のシェーヴルも続々空輸されています。せっかくの旬の時期ですもの、逃さず食してみたいものです。



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