意外と多い、眠りに関する思い込みや勘違い
動物の起源をたどれば、なるほどナットク |
「これさえあれば、ぐっすり眠れる方法なんてありません」最初からきつーいお言葉の田ヶ谷先生。ただ、昔からまことしやかに伝わっている、眠りについての誤った認識にとらわれて、“自分は上手く眠れていないのでは”と気にするあまり不眠になってしまう人が実は結構多いそう。アナタも言われたことはありませんか?「睡眠時間は長いほど良い」「早寝早起きが健康の基本」。これ、みーんな根拠がないのです。
誤解その1
健康的な生活を送るには、8時間程度のたっぷりした睡眠が必要
「まったく根拠がありません。日本女性20代〜70代の平均は7時間程度ですが、それ以上でも寝足りない人はいますし、5時間程度でも大丈夫という人もいます。
そもそも、人間を含めた動物は本来、ぐっすり眠るようにできていません。人間もその他の動物も、眠っている=無防備な状態。身に危険が迫ったら命に関わるので、すぐに目が覚めるようになっています。逆に、時間があるからといってその分眠るということはできないつくりになっているのです。生物の長い歴史の中で、種が生き延びるための環境への適応の結果といえるでしょう。ましてや皆が同じように同じだけの時間眠り込んでしまうと、大災害のときに全滅してしまいます。種の存続のために、人によって必要な睡眠時間が違うのは当然のことなのです。
なお、危機が迫っているときには身体中の各器官が協力しあって覚醒を保とうとします。悩みごとがあると眠れなくなるのはこのせいなのです。」 |
誤解その2
早寝早起きは身体に良い
「早寝早起き型か、遅寝遅起き型かは人によって違います。自分の体質やスケジュールに合った生活パターンであれば身体に悪影響を及ぼすということはありません。むしろ、他の人に合わせて生活した結果、自分のリズムを崩し、睡眠不足になる方が危険です。」 |
誤解その3
睡眠薬は強くて危険。寝酒の方が安心
「かつてドラマのシーンなどで見られた“睡眠薬自殺”は昔の話。現在使用されている睡眠薬は安全性が高く、たとえお腹いっぱいになるまで服用しても睡眠薬だけで死ぬということはありません。また、やめられなくなるというような常習性もありません。むしろアルコールの方が常習性が高く、どんどん量が増えていく恐れが。また、急にやめると禁断症状が出て不眠状態がひどくなるのもアルコールの特徴です。」 |
よい睡眠は、量(時間)よりも質。
具体的な目安として、
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日中元気に活動できている |
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朝、すっきりと目覚めている |
この2点が満たされていれば心配なし。
逆に、どんなに長時間布団に入っていても、寝つきが悪かったり夜中に何度も起きたりして日中の活動に不都合が出ては、よい睡眠とはいえないのです。
「安眠に良い食べ物を摂る」は無意味
「安眠を妨げる食べ物を摂らない」への転換を
寝る前のホットミルクやハーブティ、玉ねぎまで!?「食べると良く眠れる」といわれている食品は多い。でも本当に眠れるの? 人によっては「私はそれほどでも」という声も。
「これもまったく根拠なし。何かのおまじないではないでしょうか」と田ヶ谷先生はばっさり。「確かにカルシウムなどリラックス効果のある成分はあるでしょう。でもそれと“眠れる成分”というのは別。」(田ヶ谷先生)
例えば、バナナには
睡眠物質の一つであるメラトニンが含まれていますが、お腹を壊すか、食べ過ぎで眠れなくなるほど大量に食べないと効果がないそう。
「もし、“これさえ食べれば良く眠れる”という食べ物があったらとても危険。薬草として扱わないと大事故のもとになります。バナナが良いといっている人は、要するに“いい成分が入っているものを食べたから眠れるに違いない”という心理的作用が効いて実際に良く眠れているということ。睡眠を妨げる成分が入っていなければなんでもよいのです。」(田ヶ谷先生)そう、すべての人に対して有効な不眠対策は、「安眠できる食べ物を摂る」ことではなく、「安眠を妨げる食べ物を摂らない」ことなのです。
そして、その代表的なものがカフェイン、ニコチン、アルコール。不眠気味の人は気をつけましょう。
| カフェイン |
コーヒー、紅茶、緑茶、コーラなどに含まれています。よく知られているように、カフェインには覚醒作用がありますが、その効果が現れるのには30分近くかかります。つまり、就寝直前に摂っても寝つくことはできるのですが、その後の睡眠が浅くなるのです。また、カフェインには利尿作用もあるため、トイレが近くなって夜中に目が覚める原因になります。 |
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| ニコチン |
たばこに含まれるニコチンにも覚醒作用があります。交感神経の働きを活発にし、睡眠を妨げるので就寝前の喫煙は控えましょう。 |
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| アルコール |
アルコールは少量なら確かに寝つきは良くなりますが、明け方に目が覚めやすくなる、量が増えやすいなどの害が。 |
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近年、米国で市販されている「メラトニン製剤」が日本でも話題となっており、個人輸入する人が増えているようです。健康食品として長期間使用した場合の身体への影響が不明なため、日本ではまだ認可がおりていません。
メラトニンとは睡眠物質の一種で、人間が光を浴びている間に脳の松果体という部位で生成され、暗くなると体内に分泌されて睡眠を促す働きがあります。「メラトニン製剤」にはおもに植物から抽出されたメラトニンが配合されていますが、実はその濃度や純度が明確でないものが多いのです。というのも、「米国ではサプリメントについては事前認可制ではなく、自由に販売して良いが何か問題が起こったら厳罰および、訴訟等による社会的制裁を受けるというFDA(米国食品医薬品局)の方針のため、中身について販売前のチェックが入りにくい。一日当たりの摂取量中、メラトニンの含有量が0.25−1mgというのが効果の目安にはなるが、それも原料の植物の収穫年や原産地によって誤差がある」(田ヶ谷先生)。その上、そもそもメラトニンは摂取するタイミングによって効果のあるなしが左右されるので、不眠解消のためには専門家の指導のもとで、量や服用時刻をきめ細かく設定する必要があります。 |
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眠る時刻はコントロールできない。起きる時間を決めて光を浴びよう
「今晩は早めに布団に入ろう。時間がたっぷりあれば眠れるだろう」不眠に悩む人によくある行動パターンです。ところが結局寝つけず、暗い部屋の中で何度も寝返り、悶々として・・・となりがち。
それもそのはず。「体内時計の働きによって、前日寝付けた時刻の2〜4時間前は、一日の中で一番覚醒している時間帯なのです」(田ヶ谷先生)
その日寝つける時刻は
体内時計によって決められます。体内時計は起床直後に太陽光線に当たると「今が朝!」と認識し、この14−16時間後に眠る準備を始めます。つまり、その日起きた瞬間にすでにその夜一番寝付きやすい時刻は決まってしまうということなのです。いざ夜になってから早めに寝ようとジタバタしても、もう遅いということですね。
寝つきが悪いと悩んでいる人は、まずいつもより早めに起きて光を浴びましょう。なお、これと同じメカニズムで、夜に強い光を浴びると、体内時計が「まだ昼間だ!」と判断して身体を覚醒させ、寝つけなくなります。
中でも最近、寝つきを悪くして睡眠の質を下げると専門家の間で指摘されているのが「夜のコンビニエンスストア」。コンビニエンスストア店内の照度は約2000ルクスで、一般家庭の居間の倍以上あるのです。ちょっと小腹がすいたからと、暗くなってからコンビニエンスストアに立ち寄る習慣のある人は要注意。雑誌を立ち読みしているうちに、アナタの身体の中だけ昼間に戻ってしまっているかも知れません。
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昼食後に眠くなって仕事がはかどらず、ついうとうと・・・という経験はありませんか? 人間には約25時間周期の体内時計のほかに、約半日周期のリズム(サーカセメディアン・リズム)もあります。これにより、昼過ぎに一度眠気が高まるようになっています。これは子どもから老人まで広く認められ、なおかつ世界共通の現象であり、「午後2時の眠気」と名づけられています。しかしその対処法はお国柄によりいろいろ。
ラテン系の国では,「眠い時は眠ってしまおう」という考え方で、昼寝の習慣「シエスタ」を根づかせました。一方,北ヨーロッパには昼寝をタブーとする考え方が強く、「眠い時には元気の出る茶菓を楽しんで、眠気を克服してしまおう」という考え方のもと、ティーブレイク、コーヒーブレイクの習慣ができたといわれています。日本の「御八つ=おやつ」も「八ツ時」(現在の午後2時)の眠気対策としてできた習慣なのです。 |
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寝る直前の熱風呂は逆効果。体温の下がったときが眠りどき |
体温は、一般に日中には高く、夜には低くなります。そして、寝つくときに体温が大きく変化すればするほど寝つきが良く、深い眠りを得ることができるのです。眠る2時間前に軽く運動をしたり入浴をしたりして体温を上げるのが理想的。一度上がった体温はだいたい2時間ほどで下がってきますので、そのときに布団に入ると寝つきが良くなるのです。よく、身体をあたためれば寝つきが良くなるからと寝る直前に入浴する人もいますが、これは間違い。せっかく身体が眠りにつく準備を始め、活動をつかさどる交感神経の働きが弱まってきたときに体温が上がると、再び交感神経の働きが活発になり、覚醒してしまうのです。(ただし、冷え性の人は、手足浴や首を温めるなどの対策は有効です)一方、朝の目覚めが悪い人は、起きた時に少し熱めのシャワーを浴びてみましょう。体温が上がり身体が覚醒しやすくなるとともに、刺激が脳に伝わってスッキリします。
でも一番の不眠の原因は
「眠ろう眠ろう」と気にしすぎること |
不眠に悩む人は、「何とかして眠りたい」「今夜こそ、眠るぞ」という気持ちが強いだけに、巷にあふれる快眠法といわれるものを片っ端から試してみたくなるもの。実はこうした行動や考え自体が、心身の緊張感を高め、ますます眠れなくしてしまうということにつながりかねないのです。不眠に悩む人のほとんどは、
病気が原因ということではなく、眠りに対して気にしすぎることが原因といわれています。
雑誌やテレビなどで紹介されている「快眠法」は、いずれもリラクゼーションによって眠りやすくする方法。同じ方法でも人によってかえって緊張してしまい寝つけないこともあります。自分に合わなければすぐやめましょう。
| ■取材協力/ |
田ヶ谷浩邦先生 |
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国立精神・神経センター精神保健研究所 精神生理部 精神機能研究室室長。1989年東京医科歯科大学医学部卒業後、ドイツのマックス・プランク臨床精神医学研究所への留学ほか、さまざまな医療機関を経て2001年7月より現職。 |