2004.7.14号




第二回目は、作詞家として、1000曲以上を世に送り出してきた来生えつこさん。
「 夢の途中」、「セカンド・ラブ」、「モンローウォーク」・・・・・・。
切ない恋心や甘い記憶をつづった歌詞に、胸をときめかせた女性は多いはず。
素敵な言葉は、いったいどこから生まれてくるのでしょう?


少女の頃から、きれいなものが大好きでした


絵や写真が大好きで、時間があれば防水カメラ片手に海に潜ったり、パソコンで絵葉書をつくったりするという えつこさん。イラストをすべて自分で描いた著作本もあるほどの腕前です。
「子どもの頃からファッションが大好きで、中原淳一さん刊行の『ジュニアそれいゆ』に始まり、高校時代は『装苑』というモード雑誌を読んでいました。ただのファッション情報だけじゃなく、ビジュアル的にも興味があって。“誰が撮影しているんだろう?”ってクレジットをよく見てました。当時はクリエイティブな仕事は女性がまだ市民権を得てない時代だったんだけど、漠然と、服飾のデザインやイラストなんかをやりたいな、と夢見ていました」
もちろん、来生さん自身もファッショナブルな少女でした。
「海が大好きで、東京近郊の海はぜんぶ制覇した!ってほど通いつめました。当時はビキニなんてまだ売ってなくて。自分でいくつも縫ってましたね。光沢のある緑の布を使って大胆にしてみたり」
彼女が書いた「プールサイド」という曲に“蜥蜴(とかげ)色の水着”という詞が出てくるけれど、なんとそのときの水着が題材なのだそう!
「いっぱい遊んでデートもして。それはかなり役立ってますよ。家に閉じこもってばかりの真面目な生活だったら、詞は作れなかったかもしれません。私、スキーの詞、ひとつも書いてないんです。冬は外に出ないから(笑)。海や夏の記憶が多いからでしょうか、つくる詞はやはり夏のシーンが多いですね」


想い出のストックが、新しい世界を開く

 でも、いくら若い頃遊んだからといっても、1000曲も作るのは大変なこと。ときに、行きづまったり、言葉が出てこない・・・という経験もあるのでは?
「もちろん、工夫はしています。例えば小説を読んで、気になる言葉があったら線を引いて印をつけて、後からパソコンに打ち込むんです。言葉のストックを溜めておけば、後でまとめて見れますから」
 でも、それはあくまで技術的なこと。大切なのはもっと深い部分なのだそう。
「私の言葉は、映像から生まれてくるんです。たとえば恋人同士が出会う歌なら、夜の歩道がいいのか、それとも部屋の中がいいのか・・・シーンを思い浮かべることが大事なんですね。だから、昔見たあの映画に似てるな、とか高校時代の淡い恋愛では、彼にあんなこと言ったな、とか。やっぱり過去に触れたものや感動した場面が基本となってますね」
 表面を磨く努力も必要だけれど、今までに生きてきた経験や豊かな感情が作品ににじみ出る・・・なんだか、女性の美しさと共通するような気がします。お化粧も大事だけど、内面の充実や繊細な心模様が、ハッとする美しさを醸し出す・・・。
「いわゆるコピーライター的な、どギツイ言葉やおふざけをサビの部分に使うような詞は、私には作れないですね。“日本語に対して失礼だよ”って思っちゃう。表現したいシーンや心情に合わせて、的確な言葉を探していく。それが私のやり方なんです。
でも言葉のヒントは、いろいろなところから貰うの。たとえば『夢の途中』という歌の中に“遠い約束”って歌詞があるんだけど、夏樹静子さんのサスペンス小説のタイトルなんです。保険金殺人の話なんだけど(笑)」


言葉の世界にのめり込むようになって、自分に自信がついた

たくさんの歌手に歌を提供。しかも弟さんはシンガー・ソングライターの来生たかおさん。常に芸能界の華やかな空気が身近だった彼女ですが、「業界人ぶって、つるんで騒ぐのは大嫌い」と断言します。
「昔から、誰かに合わせるとか束縛されるっていうのが本当に嫌いでね。学校の制服も“白に紺を重ねれば何でもいいんでしょっ”という感覚で、母に作ってもらったブラウスを着たり、ヒダヒダの暑苦しいスカートをボックスプリーツに変えたり、勝手なことしてました。蝶ネクタイまで着けてましたから(笑)」
 一歩進んだ女の子だった彼女。文化祭では必ず借り出され、「みゆき族」の格好をしたり、仮装大会に登場したり。
「でもね、実は高校、半分くらい行ってないんです。脱落してましたね。
女の子が多い学校で、みんなごく普通に“OLになって、お嫁さんに”といったルートを考えていて。合わなかったんでしょうね、高校時代の友達っていないです。小学校や中学時代の友達とは今でも会うんですけど」
 とはいえ、自分流を貫くのには、それなりの勇気と覚悟も必要なはず。
「私だって、高校時代は“なんか私は周りの女の子と違う”って、自負もあったけど、不安な気持ちとの間で揺らいでましたよ。それから、社会人になりたての頃っていうのも、初めて経験することばかりで自信がないでしょ。物を知らないって恥ずかしいことだから、つい虚勢を張ったりして。そういうの嫌だなーって自分を振り返るようになったのは、24、5歳になってから」
 そのきっかけは?
「活字の世界にガーっとのめりこんで。本をものすごく読みましたね。本格的に読みふけったのは20歳頃からと、かなり遅いデビューなんですが、太宰治から始まって、戦前、戦中・・・私たちの世代の村上春樹氏、村上龍氏・・・時代を追って、オーソドックスに網羅しました。
不安な気持ちになるときも、活字だけはよりどころでした。いわゆるアイデンティティ、私の自我は、その頃に出来上がったんだと思います」
 小学校時代の同級生に久しぶりに会って「ずいぶん変わったね、強くなった」と言われるほど、えつこさんの雰囲気は変わったそう。

好きなものに囲まれて、自然の風を感じる幸せ

好きなもの、自分にとって心地よいものを大切にしたい、というえつこさん。
特に、昔から大好きだった海への想いは徹底していて、房総半島の岬に建てた別荘に、毎月通っています。
「朝起きぬけに、テラスで海や山を見ながらコーヒーを飲んでると、なんて幸せなんだろうって思います。都会に住んでると、朝起きてすぐに外気に触れることができないでしょ? 夏は水着一丁で、表を歩いてますよ。「モンローウォーク」の詞ができた、思い出の場所ですし(笑)。
ガーデニングとか鉢植えとか、人工的な花もダメなんだけど、勝手にその辺に生えてる花ってきれいなんですよね。好きなのを摘んで、家に飾るの」
 海で自然を感じる瞬間は、何よりの楽しみだと言います。
「海の底って、面白いのよ。ゴーグルひとつで潜っちゃいます。将来の夢は海女さん(笑)。潜りを覚えてからは、東京でプールに行っても、普通に泳いでるだけじゃ退屈で、ひとりで潜って、逆立ちしてます」
 忙しくて別荘に行けないときも、プールには欠かさず通っているそう。
「いいですよ、プール。週に2〜3回、50分くらい泳いでます。一時期、40代に入ってからかなり太ったことがあるんだけど、プールに行くようになって10kgくらい落ちましたから。プールで監督してる若い子とか、話をしてみるとすごく大きな夢を持っていたりして。そういう会話も楽しいしね」
 好きなものについて語るえつこさんは、これ以上ないという程にこやかな笑顔に包まれています。好きという気持ちは、人を美しくさせるのでしょう。
 夢中になれることをとことん極めてみる。他人の目を気にせず、自分に正直に・・・・・・。強く美しく生きる秘訣は、実はとてもシンプルな気持ちから生まれるのだと、改めて感じさせられます。

来生えつこさん
東京都出身。出版社勤務を経てフリーライターに。1976年、弟の来生たかおさんのデビューとともに作詞家に。「夢の途中〜セーラー服と機関銃」、「シルエット・ロマンス」、「セカンド・ラブ」など数々のヒット曲を生む。

もりたじゅんこ) 

writer's eyes
日本酒が大好きだというえつこさん。この日も、楽しい宴席となりました。
なすの煮びたし、トマト、大盛のサラダに豆腐料理・・・、彼女の選ぶ肴は、どれもこれもヘルシーなのです。「お酒は2合まで」と決め、彼女専用の徳利を傍らに置き、ゆっくりと杯を重ねつつ・・・。一年中海でお日様と仲良くしても、シミひとつない美肌を保っている理由は、案外、毎日の晩酌にあるのかもしれません。



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