本日のインタビュー会場は、混雑した都内ホテルのロビーラウンジ。
あちこちから響く話し声、カチャカチャとお茶をサーブする音が入り混じる喧騒のなか、「今日はよろしくね。何からお話しましょう」と、決して大声ではないのに、済んだ声がよく通る。ラジオで耳にする、あの明るいトーンそのまま。
ふと見上げると、ニッコリとほほえんだこずえさんの顔。こちら取材陣は、初対面のこずえさんに緊張しながら、「うるさい周りの音に負けないように!」と大口で声を張り上げてパクパクしている状態なのに、この余裕の差――。
「ええ、笑っているでしょう、私。 わざと笑顔を作っているわけではないけれど、いつも笑顔でいたいな、と心がけてはいます。だって、思っていることって、声に出てしまいますから。例えばね、電話をしていても、相手がふんぞり返ってるな、とか、うわの空だなって、声を通して伝わってくるでしょう?」
ラジオというのは、音声だけが勝負。表情も身振り手振りも、相手には見えない。
「謝るときは、マイクの前で、頭を下げますよ。例えその姿が映像で見えなくても、口先だけで謝っているのと、本当にごめんなさい、と気持ちを込めているのでは、違うんです」
だから、おしゃべりするときは、必ず笑顔。“あなたとお話できて幸せ”という気持ちを、相手に伝えたいから。
「確かに、アナウンサーは笑顔のトーンで話すのが基本だから、クセになっていますね。『ただいま渋谷〜用賀間で○分の渋滞です』って、嬉しくないニュースを伝える明るく言ってしまったりして(笑)」
今や笑顔をたやさない彼女だけれど、昔はかなりの人見知りだったそう。
「意識して変えてきたの。人間って、一人きりじゃなくって、人と関わりあいながら生きていくものよね。だから、まずは傍にいる人に興味をもって、“あなたのことをもっと知りたい、教えて”と、話しかけることがスタートになる。そのためには、まずは自分が相手を好きにならなきゃいけないなって」
「好き」という気持ちで声をかければ、相手も嬉しい。思わずつられ、笑顔で返してしまう。笑顔が、人の輪を広げていく。当たり前の、でも忘れがちな、会話の真髄。
「歳を経れば経るほど、笑顔で話しやすくなるのは確かね。若くて自分に自信のないうちはやっぱり、“相手の言うことを対等に理解しなきゃ”って背伸びして、緊張しがちなのよね。でも、人生の経験をつむと、こちらの間口が広くなるぶん、相手の言うこともよくわかる。余裕ができて、ますますおしゃべりが楽しくなるの。それは、今すごく幸せに思います」
会話が途切れて、ふっと無言になる瞬間。さて、次は何を話そう……といささか気まずい沈黙が訪れることは、よくあるもの。ましてや、たった5秒間沈黙があるだけで、放送事故ととらえられてしまうラジオの世界。さぞやプレッシャーも多いのでは?
意外にも、あまりプレッシャーは感じない、とこずえさんは言います。
「例えば今、目の前にティーカップがあるでしょう。これを、その場にいない相手にどうやってわかりやすく伝えよう、そう考えるだけで、言葉はいっぱい湧き出てくるんです。
『○○社から発売のティーカップ。色は白で、一客○○円』。こんなふうに情報を伝えるだけだと一瞬で終わっちゃうけれど、『温かみのあるクリーム色で、紅茶を入れたらすごくおいしそう。(スプーンでチーンとカップを叩いて)厚みがあって、たっぷり入るから、お茶も冷めにくくて、ゆっくりと楽しめそう……』と、使うシーンをあれこれと想像しながら説明すれば、どんどん言葉は紡ぎ出せるし、相手の想像力も掻きたてられて、楽しくお話が続くわけです」
そう。言葉は想像力を掻きたてる。いろいろな方向から、物事を説明すること。
「最近気になるのは、きちんと言葉で説明できない人が、とても増えていること。擬音語、擬態語ばかりが多くって、たった一つの言葉で、何でも済ませちゃおうって人が目立ちます」。
例えば今はやりの“ヤバイ”という言葉。「この前きいた曲、ほんとうにヤバくて。ヤバかっこいくて超ヤラレタ」。ネガティブなことも、わくわくする気持ちも、賞賛のニュアンスも、なんとなく雰囲気で通じてしまう。でも、それはいつも顔をつき合わせている仲間同士だけでの話。世代の違う人や、初対面の人に対しては、まったく通じない。とはいえ、いざかしこまって説明しようと思っても、ふさわしい言葉が浮かばず、口ごもってしまう。
「友達同士だから、汚い言葉でいいんだ。目上の人にはきちんと話すから……なんて思うのは大間違いで、緊張しているときほど、日常の言葉が出てしまうんです。だから普段しゃべっているときこそ、練習の場なんです」
下品な表現は慎む、正しい言葉を選ぶ……というのはもちろんのこと、「ひとつのことに対して、“どうやって表現しよう”“こういう言い方もあるな”と、頭を働かせる」ことが大事なのだそう。
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言葉のストックをためる。ネタはいつだって、身の回りに |
「それにはやっぱり、本を読むのがいちばんですね。語彙が増えるし、いろいろな表現方法に触れることができます。本の中の素敵な言葉をメモしたり、ふと思い出したフレーズを書きとめたり」。
もちろん、意識して言葉を磨くのは大切なこと。でも、こずえさんの話を聞いていると、朝起きてから寝るまでが、「語彙の仕入れ&熟成」タイム。
「朝、駅に向かって歩くとき、街の様子をキャッチして、頭のなかでレポートしたり、感想を言ってみるの。八百屋さんを見るだけでも“今はこれが旬だな、今年は○○が豊作で安い”とわかるし、みんなが着ている服を見れば、今こんな服が流行ってるんだな、とわかるでしょ。それだけでも話のネタになるじゃない。家に帰れば、ダジャレ大会よ。家族に同じことを言うのでも、“ちょっと笑いを混ぜてみよう、他に似ている言葉ないかな?”と考えると、頭の訓練になるし、楽しいでしょう。寝る前は、肌のお手入れをしながら鏡に向かって一人おしゃべり。ニッコリ笑って“今日はよく頑張った”ってほめたり、“あれは良くなかった、次はこうしましょう”って反省会したり。顔の筋肉をよく動かすから、小顔になるし、たるまないのよ」
1日10分、笑ってすごす時間が増えれば、10歳若返る。これがこずえさんのモットー。一人きりでいるときも、常に頭の中でおしゃべりをしながら、ニコニコ笑う。しかも、1日、1日とそれを繰り返すうちに、言葉のストックが次々と増えるから、ますます表現力が豊かになって、いろんな人と、より深く、楽しく会話ができるようになる。歳を重ねれば重ねるほど、どんどん魅力的な人になれる、究極のアンチエイジング法。
「だからね、歳を重ねるって本当に素敵なことよ。私、今、生きている中で一番幸せって、胸を張って言えるわ」。
言葉を磨く。それはただ「話し方上手」になるだけでなく、生きていく毎日を、より楽しく、充実させる一番の秘訣。まずは、笑顔で丁寧に話してみる――。当たり前のことを、今一度、きちんと実践したいものです。
こずえさんのお仕事バックの中身を拝見
毎朝、出勤前にコンビニで買うという新聞2誌(総合誌とスポーツ誌)、気になったニュースやふと心に浮かんだフレーズなどを書きとめておく防忘ノート、家族の写真や記念のハガキ、いずれ整理して防忘ノートにスクラップする予定の記事の切り抜き、携帯ラジオ、耳栓、収録のために通う、東京〜静岡間の新幹線定期など。「毎日音を意識している生活だから、ときには頭を休めるために、耳栓は欠かせないアイテムなの」 |
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中村こずえさん
1973年にFM東京(現TOKYO FM)に入社後、「歌謡バラエティー」メインパーソナリティ、「イブニング・エコー」報道番組キャスターなど、20年近くにわたって、人気アナウンサーとして活躍を広げる。フリーとなった現在は、SBS「ほのぼのワイド 中村こずえのsmile
for You」(月〜木 9:00−13:00)LFネット番組「中村こずえの みんなでニッポン日曜日」(日 13:00−16:00:秋田・信越・山梨・福井・北陸・静岡・岐阜・山口・西日本・高知・長崎放送)などのレギュラー番組を始め、ナレーションや朗読の講師など、多忙を極めている。プライベートでは二児の母、ウィークデイは毎朝、子どものお弁当を作ってから出勤、週末は家族とスキューバダイビングやゴルフにいそしむなど、毎日をパワフルに楽しんでいる。
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