もともと太りやすい体質だとか、お母さん似で顔のたるみが気になるとか、家族全員せっかち……などなど、私たちは自分の特徴を遺伝のせいにしがちです。
「確かに遺伝に左右される部分もありますが、それはせいぜい、全体の1/3くらい。残りの2/3は、後天的な、自分が選択した環境やライフスタイルによるところが大きいのです。なかでも一番大きいのが、食環境。私たちの身体は約60兆億個もの細胞でできていますが、細胞を形づくったり、エネルギーを生み出す原料となるのは、すべて口から取り入れる食物なのです」
たとえば肌のハリひとつとっても、ハリのもととなるコラーゲンやエラスチンは、食物のたんぱく質を分解してできたもの。しかも、体内で合成されるためには、補助となるビタミン類も欠かせない。だから、肌にハリのある人は、ビタミン摂取量も充分で肌色に透明感があるし、全身の代謝も良くてプロポーションも悪くないはず。外見を見れば、おおかたの食生活は推測できるのです。
「それだけでなく、知性や性格なども、食べ物に影響されるんですよ。
ここ最近“キレる”という言葉をよく聞きますが、そもそもモノを考えるというのは、糖質というエネルギー源が、ビタミンB1などの補助的な栄養素とセットになって脳を活動させる働きのこと。だから、そういった補助的な栄養素がほとんど含まれないジャンクフードばかり食べていると、脳の働きが悪くなって、思考力が低下してしまうのです。ましてや、ビタミンB1はイライラを防ぐ効果や代謝を高める働きも担う栄養素。不足すればますます気分がささくれ立つし、代謝も悪くなって太りやすくなってしまう。栄養バランスの崩れは、次々と悪循環を生んでいくのです」
頭脳、容貌、性格、すべては食べ物によって決まる。
「人間は、食べ物からできた作品なのです。身体全体の細胞は、約6ヵ月で生まれ変わるといわれています。つまり今の食事が、将来のあなたを変えていくのです」

そういう白鳥さんも、いまや講演に著作活動にと多忙な日々ですが、実は栄養についての専門的な勉強をスタートしたのは30代に入ってから、というから意外です。
「栄養士の資格をとるために、学校では18歳の同級生たちと机を並べて勉強しました。一人だけ年齢が違うから、教室でも目立ったのでしょうか。先生に徹底的に目をつけられてしまって。ただ上手にお料理を作るだけでは許されなかったの。“カレーを作るには、にんじん○グラムとたまねぎ○グラム”と、先生のレシピ本、1冊丸ごとグラム単位で暗記させられたりして。何て無意味なんだろう、って本当に嫌になりましたね。お料理って、楽しく作っておいしく食べることが一番の基本なのに、“楽しさ”の部分をまったく無視しているんですから」
幸い、「食」に関心の高い知人が多くて、自宅でホームパーティをよく開催したこと、学校卒業後に2人のお子さんを続けて出産し、毎日が「食育」の実践の場となったこと・・・プライベートで、食の知識を磨いたり、楽しさを味わう機会は充実していたそう。
「テレビ東京に呼ばれて、横山やすしさんや桂三枝さんが
トークをする横で、お料理を作ってもてなす、という生番組にレギュラー出演したこともありました。緊張感はありましたが、楽しかったですよ」
| どんな過酷な環境でも、自身の「怠け心」に負けなければ、克服できる |
プロフィールだけを拝見すると、30代での栄養士資格取得以降、トントン拍子に「食のプロ」としてのキャリアを積んでいったように思える白鳥さんですが、もちろん、人知れず努力もたくさん重ねています。たとえば「調理師」という資格を取得するために必要な数年間の実務実習。
「コネも何もありませんから、自分でレストランを探して電話をかけて、『お給料はいりません、修行をさせてください』と交渉をすることから始めました」
甲斐あって、ホテルニューオータニの中国料理店で、実習をさせてもらうことに。でも、格式ある大きなレストランのこと。しかも、“料理人は男の仕事”という当時の雰囲気に、単身乗り込んでいくのは、勇気のいることでした。
「男性ばかりの職場のなかで、最初はとにかく“迷惑をかけないように”と、調理場の隅でひたすら、洗い物をしていました。こちらは教えていただく立場ですから。でも、真面目に働いていると、それをきちんと認めてくれる人がいるんです。料理長から“今度、これを作ってごらん”と声をかけてもらえるようになって。それからは、ずいぶん楽になりました」
不安にさいなまれる時、自信を失いそうな時・・・、そんな時の一番の敵は「自分自身の怠け心」と、白鳥さんは心に銘じているそう。
「たとえば“私はもう○○歳だし・・・”とか、“世間は私のことをどう噂するかしら・・・”といった邪魔なプライドは取り払うべきですね。条件や他人の思惑は関係ないんです。大事なのは、自分の本当にやりたいことを、諦めずに頑張る、その意志の力だけ。弱い自分に、勝たなければいけないんです。
そのためには、目標を決めて、それに向かって迷わずやりとげることです。明確な目標があれば“私にはここが足りない”と、具体的に努力するべきことが見えてきますから」
また、グズグズ悩んでいる暇があるならば、まずは捨て身で、新しい環境に飛び込んでみる、というのが白鳥流。
「子どもの留学のためにアメリカに12年住んだのですが、当時の私は英語が話せなかったし、車の運転もしたことがなかったんです。でも、向こうに行ったらすべて自力でなんとかするしかないでしょう」
最初は片言でも、いずれ話せるようになるもの。それどころか、日本で身に着けた華道や茶道の知識を請われて現地で講師をするなど、予想以上の活躍の道が広がったと、当時を振り返ります。
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「同じ釜の飯」。対人関係も、食を介せば豊かになる。 |

アメリカに渡ったばかりで言葉に不自由したとき、他人とのコミュニケーションを図るのに手っ取り早く役立ったのは、やはり「食」だったのだそう。
「同じ釜の飯、という言葉がありますが、食卓をともに囲むと、相手への親密感がまして、仲間意識が生まれてくるんですね。政治の世界でも、まずは晩餐会で、他国のVIPをもてなすでしょう? 言葉が通じない、利害関係が絡んで緊張状態にある・・・、そんな時でも、おいしいものを目の前にすれば気持ちが和むのです」
レタスをさっと千切ってドレッシングをかけただけ、お肉やポテトをサッと揚げただけ・・・、そんな簡単料理でも、手作りの食事には計り知れない効用がある、と白鳥さんはおっしゃいます。
「サプリメントで栄養を補うのとは、まったくレベルが違うんです。噛む、飲み込む、消化する・・・、食べ物を味わいながら咀嚼することで、脳に刺激が与えられて満腹感や幸福感がうまれますし、食べ物を消化する時は身体が熱を産生して、全身がポカポカと温まります」
考えてみれば、長い人生のなかで「食」は、毎日、必ず向き合わなければならない一番のパートナー。家族や友人との絆を深める、他では変えられないコミュニケーションツール。そして、自分自身を造る、おおもととなるもの。
「何が何でも、毎日手の込んだ料理を作るべき、と無理強いするつもりは全くありません。私自身も、忙しいときはサッと作れてサッとかき込む簡単な食事で済ませることもあります。
でも、たとえコンビニで出来合いの食事を買うときにも、“自分の身体によいものを選ぼう”という一工夫をすると、楽しくて気分が充実しますし、実際に栄養バランスがとれて心身のパワーが高まるから、余裕ができるんですよ。“牛丼や天丼など単品メニューを選んだら、必ず野菜入り春雨スープをセットにする”・・・、その程度の工夫でもいいんです。毎日のことだから将来的には大きな差になりますよ」
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仕事場でのよき相棒、愛猫「ミルク」と「ミミ」。
執筆をしていると、いつの間にかひざの上にのっているそう。
デスク周りに、お気に入りの「ミルク」と「ミミ」の写真を飾って。
「ストレスを癒す存在は大事ですね。ペットはいいですよ。
あと、イライラするときは、歌詞を作ることもあります。
一番、二番、三番と歌詞を入れ替えるなど、 言葉あそびで頭を使うと、
そちらに夢中になるから嫌なことを忘れられるの。
適度にそのときの気持ちも盛り込めるし。
“作品として売れて印税が入れば、一石二鳥”と思えば、
有意義な気分になるしね!」
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白鳥早奈英さん
栄養学博士・管理栄養士。中部学院大学講師。
日本で初めて、栄養学に基づいた「食べ合わせ」の重要性を提唱。
日本女子大学食物科卒業後、東京農業大学栄養科、およびアメリカ・ジョージア州立大学栄養科に学ぶ。12年間のアメリカ在住中に、アイオワ州アメリカン・ワールド大学で栄養学博士号を取得。
この25年で、食をメインテーマに60冊以上を上梓する精力的な執筆活動を行いながら、TV出演、講演、雑誌や新聞の記事監修などでも幅広く活躍。 |