1990年代始めに、フランス・ボルドー大学の研究によって、フランス人は脂肪分の高い食事を摂っているにもかかわらず、他のヨーロッパ諸国に比べて心臓病になる確率が低い。理由は、赤ワインの摂取量が多いから、という事実が判明しました。それは、赤ワインが強い抗酸化作用を持つポリフェノールという化学物質を豊富に含むためです。ポリフェノールとは、タンニン、カテキン、アントシアニンなど、赤ワインの渋みと色のもとになっている物質の集合体で、元来、葡萄の皮や種子に多く含まれています。
ポリフェノールという言葉も最近はすっかりおなじみですが、以前は、栄養的価値はないと見向きもされない存在でした。ところが、体中の細胞を酸化させて老化を促進させる「活性酸素」の働きを抑制する物質として注目を集め始めたのです。酸化とは文字通り酸素と化合することで、物が燃える反応と考えればわかりやすいでしょう。体内でおきる酸化とは、呼吸によって取り込まれた酸素がブドウ糖をゆっくりと燃やすことによっておこります。体温が常に36度前後に保たれているのもブドウ糖が酸化された時に発生する熱のおかげです。が、ブドウ糖が酸化すると活性酸素までもが発生してしまいます。これは酸素よりもはるかに酸化力が激しく強い毒性を持っています。具体的に活性酸素は、血液中の悪玉コレステロールを酸化させて動脈硬化をおこしたり、血管や心臓に負担をかけ、発病のリスクを招きます。さらには肌のシミ・シワを増やすなどの作用もあるのです。そこで出てきたポリフェノール、古来、人類の願いであった不老長寿の宿敵とも言える、「活性酸素」の働きを抑制、除去し、身体を若々しく保ってくれることがわかったのです。
例えば、ポリフェノールは、動脈硬化の原因である悪玉コレステロールの酸化を抑制する力を持っており、習慣的にポリフェノール=赤ワインを摂取することで、動脈硬化をおこりにくくします。ひいては、それに付随して発生しやすい心臓病、糖尿病、ガンまでをも抑制することにもなるわけです。同時に、お肌から内臓まで、老化の防止にも効果を発揮するのですから、現代の仙薬ともてはやされるわけです。
赤ワインにポリフェノールが多く含まれている理由を知るためにも、ワインのできるまでを、簡単に理解しておきましょう。
おそらく、ワインは自然発生的にできた、人類最古のお酒の一つです。というのも、壺などに入れて保存しておいた葡萄が、自重で自然につぶれ、発酵してお酒となったのが始まりだと思われるからです。どんなお酒でも、含まれるアルコールは、糖分を酵母で発酵させることによってのみ得られるものです。ワインの場合、葡萄の実をつぶして果汁をとり、それに含まれる糖分で発酵するという、いたってシンプルな酒。一方、日本酒の原料である米やビールの原料の麦は糖分が少なく、逆にでんぷんが豊富なので、麹やカビ、麦芽などの力を利用して、でんぷんをいったん糖分に替え、それを発酵させてアルコールを得るという二段の工程を踏まなくてはなりません。醸造にはかなりの経験や技術が必要だったはずで、自然発生的にはできにくいもの。ところが、ワインの場合は放っておいてもワインになる。葡萄あるところにワインあり。人類は、ワインを飲む生き物として運命付けられていたのかもしれません。
では、現在のワインの製造工程を簡単に説明しましょう。コンピューターを導入してハイテク技術にしのぎを削るワイナリーあり、また、伝統を固守する蔵あり、と、さまざまですが、ワインのできる過程は、概ね、下記の通りです。
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葡萄を収穫し、破砕機にかけてつぶし、果梗(房から粒を取り除いた残り)を除く。
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果皮や種ごと圧搾し、発酵槽へ入れる。
このとき白ワインはつぶした実をさらに圧搾機で絞り、果汁だけを発酵槽へ入れる。
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発酵槽の中で、果汁は酵母の働きで発酵を始め、糖分が分解され、アルコールと炭酸ガスができる。発酵に要する期間は10日から20日。
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発酵の終わった若いワインを樽に詰め、熟成させる。この間に熟成香が生まれ、味わいに深みが出る。貯蔵中に余分な味がつかないように、時々下に沈んだ澱を除く。
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樽で熟成させたワインを瓶詰めし、暗く涼しい貯蔵庫でねかせる。ワインは瓶の中でも熟成を続ける酒で、ねかせておく間にも少しずつ味が変化する。瓶熟の期間は、葡萄の種類やワインのタイプで異なる。 |
説明に添えた写真は、昨年11月半ば、フランス・ボルドーの銘醸ワイナリーである、メドック地区の格付け第一級銘柄であるラフィット・ロートシルトのシャトーを訪ねた時のものです。産するワインはエレガントな芳香と風格のある酒質で卓越した存在といわれています。造り方は伝統を重んじ、もちろん、必要な部分に機械やコンピューターは取り入れていても、基本は何百年間変わらぬ、手作業。昨年収穫された葡萄は、ちょうど発酵槽の中で発酵中。ワイナリーも静けさを取り戻した後だったようです。しんと静まりかえった石造りの建物の中では100年以上前のワインが眠ると同時に、毎年収穫された葡萄が仕込まれ、それぞれの工程を静かに時を待って過しています。シャトーの中に立ち込める独特の空気に、伝統の重みを感じずにはいられませんでした。もう一つ訪ねたシャトーは、ボルドー・メドック地区、ポーイヤック村のロスチャイルド家のムートン。毎年アーティストの描くラベルを使用することで名高いワイナリーです。基本は同じく伝統による手作りですが、こちらのワイナリーは全体を通してぐっと近代的。
こうした第一級のシャトーを見学することで、フランス、また欧州の生活の中でいかにワインが珍重されてきたか、その重要性がよくわかりました。
ところで、ポリフェノールが葡萄の果皮や軸に多く含まれているのならば、葡萄を食べたり、葡萄ジュースを飲んだりしても同じではないかと思うかもしれませんが、そこが違うのです!葡萄が発酵してアルコールになる過程で、新たなポリフェノールが作られ、身体への吸収が高まります。よって、同量の葡萄ジュースに比べ、ワインには3倍ものポリフェノールが含まれています。
また、葡萄の種類によってもポリフェノールの含有量が異なります。ポリフェノールの中には、アントシアニンという色素が含まれていることからもわかるように、濃いルビー色を有する葡萄品種の方が、色が薄いものよりポリフェノールは多いのです。つまり、ピノノワールなどよりも、カベルネ、シラー、マルベックなどのほうが豊富。
また、一般的に良質なおいしい赤ワインほど、ポリフェノールを多く含んでいるといって間違いありません。というのも、健康で充分に熟成した葡萄ほどポリフェノールを多く含みます。つまり、きちんと手をかけて育て、完熟期に丁寧に収穫した葡萄を用いれば、おのずとポリフェノールの含有量も多くなるということです。
では、アルコールを受け付けない体質の人ワインの恩恵にはこうむれないのか……。いえいえ、鍋でワインを温めてアルコール分を飛ばしても、ポリフェノール自体が減少することはありません。ヴァン・ショーといって、アルプスの山々などでは、ホットワインにして嗜む方法もありますから、それを真似るつもりで、アルコール分を飛ばしたワインを飲んでみるのもいいでしょう。ただ、それではいくらなんでも味気ないという向きには、プラムやイチジク、洋梨など、フルーツのコンポートにして、スープの部分までいただくというのはいかがでしょうか。ただし砂糖の入れすぎにはご用心!

酒は百薬の長というくらいですから、どんな酒にもメリットはあります。例えば、アルコールの働きによって血行がよくなるというのは、共通の現象です。ところが、ワインが他のお酒と大きく違う点は「酸味」にあり、これが味わいの上でも、効能の上での大きな特徴となっています。この爽やかな酸味を作り出している主成分は、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、琥珀酸、クエン酸、酢酸など。これら有機酸の働きによって、ワインには極めて高い抗菌作用が備わっています。特に白ワインの殺菌力の強さは特筆もの。約10万個のサルモネラ菌をわずか10分で殺すほどの威力です。白ワインの中でも有名なブルゴーニュ地方のシャブリ。牡蠣にシャブリという組み合わせは、ワインに詳しくない人でも聞いたことがあると思いますが、これも白ワインの強力な殺菌作用を代弁してのこと。生牡蠣を食べるための先人の智恵だったのでしょう。
さらに、白ワインにはカリウムが豊富に含まれ、しかもナトリウムをほとんど含まないので、カリウムの利尿作用により新陳代謝が活発となるというメリットもあります。
有機酸の中でもクエン酸は疲労回復のためには欠かせない物質。ゆっくりワインを楽しめばアルコールの力でリラックスし、さらにはクエン酸で疲労が軽減されるに違いありません。
ヨーロッパのワインと日本の酒との大きな違いの一つは、本来、食事と一緒に飲むものであったかどうかという点にもあります。ヨーロッパの水はそのまま飲料水としては飲めず、ワインは貴重な酒であると同時に喉を潤す貴重な飲み物でもあったのです。そうした必要性から、酒としては異なる発展の歴史をたどりました。ところが日本は水がよいのでその必要なし。なにしろ、酒にしても水を加えて造っているくらいですから。だから、同じ酒でも、食文化の中の位置づけとしては違う発展の歴史をたどることになるわけです。また、ワインは同じ発酵食品であるパンとの相性抜群。日本酒は、原料は同じ米であっても、ごはんそのものには合いにくい、という性質もあり、日本酒は、食中酒というよりも酒の肴との相性を楽しむ飲み物として研ぎ澄まされてきました。
それを思うと、現代の日本の食生活において、食中酒としてこれだけワインが普及してきているのも、必然のなせる技と言えるのかもしれません。
そして、ワインのご利益をもっとも効率よく摂取するためには、夕食時にゆったりとした気持ちで適量飲むのがベスト。ストレスの解消になると同時に、アルコールが血栓の元になる線繊維を溶かすシステムが、夜間の睡眠中という最も有効に働く時期に力を発揮するのです。とはいえ、飲みすぎは百害あって一利なし。いずれにしても酒量をほどほどに控えて楽しむのが何より大切です。