2006.3.8号




 春になると、転勤、異動、引越しなど、仕事でもプライベートでもさまざまな変化が訪れるもの。実はそれが思わぬストレスとなって、ゆううつな気分を誘うことがあるのです。「気が重いな、疲れたな」と思った時に読んで欲しい、専門医からのメッセージをお届けします。


人生の転機に、ストレスあり

 ストレスの時代といわれる現代社会。とりわけ春は、環境の変化によって強いストレスを受けやすい季節です。みなさんの周りにもいませんか?新年度を迎え張り切っていたのに、5月ごろになると元気がなくなったり、イライラしていたりという人を・・・。
特に忙しかったり、トラブルを抱えたりするだけではなく、例えば子どもでも、入学や転校がストレスとなるし、結婚や昇進などのおめでたいことでもストレスを生み出します。つまり、今までと違う環境に身をおく、ということは人間にとって、多かれ少なかれストレスになりうるということなのです。
ところが、同じようなストレスを受けても、人によって何ともなかったり、逆に心身に不調をきたしてしまうという違いが出てきます。これはなぜなのでしょうか。
<人生のストレス度>
順位
出来事
生活変化単位値
1
配偶者の死
100
2
離婚
73
3
夫婦別居
65
4
刑務所入り
63
5
肉親の死
63
6
怪我や病気
53
7
結婚
50
8
解雇
47
9
夫婦の和解調停
45
10
退職
45




ストレスに強い人と、そうでない人がいる

 実は、私たちが「ストレス」といっているものの正体は2つあります。1つは、上の表で取り上げたストレスを起こす原因。これをストレッサーといいます。
もう1つは、ストレッサーによって実際に起こる心身の反応で、これをストレス反応といいます。

(例1)
ストレッサー
知らない土地に転勤になった。引越しの後片付けもなかなか進まないまま新しい仕事に取り組んでいるが、親しい人もおらず、仕事がなかなか覚えられない。そのうちミスが目立つようになり、新しい上司に怒られてしまった。
ストレス反応
プレッシャーのあまり胸に苦しさを覚えるようになった。

あれもこれもしなきゃと思うと夜眠れない。食欲も落ちてきた。

しかし、誰もが転勤すると必ず苦しさや不眠、食欲不振に陥るわけではありません。

(例2)
ストレッサー
知らない土地に転勤になった。引越しの後片付けもなかなか進まないまま新しい仕事に取り組んでいるが、親しい人もおらず、仕事がなかなか覚えられない。そのうちミスが目立つようになり、新しい上司に怒られてしまった。
ストレス反応
引越しの片付けはそのうちやればいいや。仕事でわからないことは、まだここでは初心者なんだから何でも聞こう。

上司はこれからの期待をこめて怒ったんだろう。

気にしない、気にしない。
徐々にプレッシャーが薄れ、周りの人に積極的に声をかけ、仕事を教えてもらうことで親しい人もできたので、気持ちも軽く、明るくなってきた。

この、↓の間に起こっている心の持ちようをストレス対処法=ストレスコーピングといいます。
つまり、ストレスに対してどのような反応が出るかはストレスコーピングの違いによるといえるのです。
 ストレッサー、ストレス反応、ストレスコーピングの関係を整理して考えられるようになると、ストレスを受けた時にも自分の心身をよい方向にコントロールすることができるようになります。


ゆううつ気分=ストレス×素質?

 それでは、ストレスにうまく対処するストレスコーピング力をつけるにはどうしたらよいでしょう?
その前に、いわゆる「ストレスに弱い人」には、もともとそのような素質があることに触れておきましょう。素質には、生まれつきの体格や性格、また胎児のときや出世時に脳に生じた障害などが関係すると考えられています。これに育ってきた環境などがあわさって、ストレスに弱い素質へと発展していきます。
参考までに、次のような性格の人はうつに対してご用心!

まじめで几帳面、責任感が強い
コツコツ努力をする
何ごとにも真剣に取り組む
最後まできちんとやりとげようとする
集中力や忍耐力にすぐれている
周囲の雰囲気に気を配る
いいかげんなことが嫌い
1つのことに熱中するとのめりこみやすい


知っておこう「9つの考え方のクセ」

 ストレスが強くなると、否定的、悲観的な考えばかりが浮かんできて、そこから離れられなくなる、といったことが起こりがちです。これを「認知の歪み」といいます。認知の歪みはますますストレスを強めてしまい、自分で自分を苦しめてしまいます。
ストレスコーピング力をつけてこのような悪循環を断ち切り、ストレスを軽くする方法として、その日あった出来事を日記や、メモ程度でもいいので書き出すことをおすすめします。その上で、次に挙げる「9つの考え方のクセ」と照らし合わせてみましょう。必ずどれかに思い当たるはず。自分がどのパターンに陥っているかに気づくだけでも認知の歪みを直すのに役立ちます。

<9つの考え方のクセ>
1. 独断で決め付けてしまう・・・何の根拠も証拠もないのに、「そうに決まってる」と推論で決め付けてしまう。
2. オール・オア・ナッシング思考・・・何ごとも完璧であることを求める。「一番でなければ負けだ」と考える。
3. 悪い面だけしか見ない
4. 過大評価もしくは過小評価・・・小さなミスでも「もう自分の人生は終わった」と思い悩んだり、大成功しても「この程度ではまだまだだ」と思ったり、何でも自分を責める材料にしてしまう。
5. こうあるべきだと考えてしまう
6. 一事が万事と考える・・・1つ悪いことが起こると「この先もずっとこうだ」と決め付けてしまう。
7. 何でも自分が悪いと考える
8. 感情だけで決める・・・例えばある仕事を担当したときに「こんなに不安なのは失敗する前兆」→「失敗したら2度とチャンスはない」→「リストラされる」というように、感情本位で悲観的な方へと考えてしまう。
9. 勝手に予言してしまう・・・何かを行う前に、勝手に否定的な予言をしてしまう。その結果、自分で自分の行動を縛ってしまい、予言通りの結果が出ると「思った通りだ」と否定的な予言に確信を持ってしまう。



それでも心が悲鳴を上げたら

 ストレスを和らげるには、こうした自分の考え方のクセを知るとともに、運動をしたり趣味に没頭できる時間をもったりして発散させることも大切です。ところが、「ストレスを解消しようとあれこれやっているのに、余計に疲れてしまう」ということはありませんか? そのように感じたら・・・ほかにこれといって症状がない場合でも早めに精神科などの専門医に相談してみましょう。

うつ病はおもに下のような症状が見られます。


抑うつ気分が2週間以上続く
午前中を中心に、ひどい落ち込み感や倦怠感、イライラがある。
午後から夕方にかけて次第に軽くなってくる。
睡眠障害
布団に入ってもいつまでも眠れなかったり、ずっと早く目が覚めたりする。
反対に、いくら寝ても寝足りず、昼間も寝続けてしまうこともある。
強い罪悪感
些細なことをくよくよ悩んだり、自分を責めたりする。根拠がなくても自分のせいだ、と思ったりする。

死への思い
この世から消えてしまいたい、死んだ方がましだ、と思う。


1つでも思い当たることがあったら、我慢せず専門医に相談しましょう


うつ病は特別な病気ではありません

 誰でも風邪をひくと熱やせきなどの症状があらわれます。このとき体内ではウイルスと戦うために白血球が一時的に増えるなどの変化が起こっています。
うつ病も本質はこのようなカラダの病気のメカニズムと一緒。ストレスがきっかけとなり、脳内で情報をやりとりする神経伝達物質が減ってしまい、脳の働きが低調になって起こる病気です。表に出てくる症状は、熱やせきではなく抑うつ気分や自責の念といった心理的なものになりますが、体内の物質のバランスが崩れているということにおいては、「風邪と同じようなものだ」と考えてよいのです。アメリカの調査では、4割の人が一生の間に一度は心の病を経験するという結果も出ています。
うつ病の治療に使われる薬は、不足してしまった神経伝達物質の量を補うように働きます。風邪を引いたときに薬を飲むのと何ら変わりはありません。うつ病かも知れないと思ったら、構えず、偏見を持たず、早めに精神科などの専門医を訪れることが早い回復につながります。


あなたの周りの人がうつ病になったら

もし家族や親しい人の中にうつ病の人がいたら、次のことに気をつけましょう。
具体的な指示、アドバイス、励ましをしない。
「〜してみたら」「がんばって」といった言葉は、よかれと思って言っても相手には負担になります。
徹底的に聞き役にまわる。
自分の意見は言わず、相手の気持ちを受け止めてあげましょう。それだけでもラクになります。
(家族の場合)もし本人が医者へ行くのを渋っていても、家族だけでも相談に行くことをおすすめします。日ごろの接し方などについて、適切なアドバイスを受けられます。



お話しを伺った先生
墨岡 孝先生

慶應大学医学部卒。成城墨岡クリニック院長としてビジネスパーソンの診療にあたるかたわら、日本経営協会メンタルヘルス対策委員、OA健康問題懇話会委員などを歴任、現代人の心のトラブルと最前線で向き合う。詩人でもあり、「歴程」同人として『頌歌考』などの作品がある。
著書に『なぜ心が病気になるの?』(ナツメ社)、『うつな気分が晴れる本』(成美文庫)などがある。
成城墨岡クリニック:http://www.sumiokaclinic.com/


writer's eyes
 物事が思い通りに進まなかったり、思わぬアクシデントに見舞われたりすると、私もついつい悪い方へ悪い方へと考えてしまうクセが出ます。そんなとき「あー、今、私、イライラしているな」「いつもより落ち込んでいるな」とココロの中でつぶやくと、ちょっと楽になることがあります。自分を客観的に見ているもう一人の自分を意識することで、冷静になれるということでしょうか。「人生7割(うまくいけばOK)!」という墨岡先生の言葉が身に染みました。

渡邉真由美 ) 

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